第5世代通信(5G)ならではの魅力的な通信サービスなど付加価値を高めることでARPUを上げるとともに、通信事業の落ち込みを補うために金融・決済などの非通信事業に一層注力することになるが、各社とも23年3月期の業績予想は、かろうじてプラスを確保できる程度という見通しだ。
格安スマホ各社も、大手3社が格安プランを導入したために、低価格の優位性が崩れ、厳しい戦いを強いられている。
それでも大手3社の寡占状態は終わらない
携帯電話は今や生活インフラの中核であり、電気、ガス、水道並みの公共的料金と言えなくもない。
菅前首相は、「公共の電波を利用している以上、通信会社は公共性が強く求められる」という論法で、政府主導で民間企業に料金引き下げを迫った。
だが、携帯電話の料金は本来、民間企業が競争政策の中で自由に設定するもので、政府が介入して半ば強制的に下げさせることには、疑義がある。
世界を見渡しても、政府が料金設定に介入するケースはまれという。
もともと、国内の携帯電話市場は大手3社による寡占状態が長く続き、料金が高止まりしていた。そこで、政府は、寡占市場を活性化して料金水準を下げようと、格安スマホ会社の参入を促し、楽天モバイルの新規参入に道を開いた。
そうした中で始まった「官製値下げ」は、携帯電話料金の低廉化を実現したが、値下げ競争が激化する中で、後発の楽天モバイルや格安スマホ各社を苦境に追い込み、大手3社による寡占の固定化を促すことにもなった。当初の競争政策の理念からみれば、本末転倒といえる。
「値上げに見えない値上げ」が始まる恐れ
寡占市場が復活すれば、したたかな大手3社は、落ち込んだ収益を回復させるために、あの手この手の増収策を探ることになる。
楽天モバイルのような直接的な値上げはともかく、「もうちょっと払えば、お得なサービスがあります」と高額プランに誘導するような「値上げに見えない値上げ」で、実質的な値上げを図ることも想定される。
楽天グループの三木谷会長兼社長は「さらなる値上げはしない」と強調しているが、「想定内」という他社への流出が増大し赤字基調が改善されなければ、そんなことは言っていられなくなるかもしれない。
「官製値下げ」のほころびが見え始めたが、そのツケは利用者に回ってくるかもしれない。