料金の優位性が崩れれば、契約者が競合他社の格安プランに大量に流れることが予想されたが、その見立てはすぐに数字に表れた。
発表直後の数日間に、KDDIでは、0円から利用できる格安プランの新規契約数が前月の同期間に比べ約2.5倍と急増した。ソフトバンクも、乗り換え件数が前月比2.6倍になった。格安スマホのインターネットイニシアティブ(IIJ)は、申し込みが殺到してうれしい悲鳴を上げたという。
多くの利用者がいかに価格に敏感か、を物語っている。
今回の値上げで、歩留まりがどの程度になるかは不透明だが、楽天モバイルは、通信ネットワークが脆弱で顧客サービス体制も貧弱といわれるだけに、既存の契約者のつなぎ留めに苦労しそうだ。
「官製値下げ」に躍った利用者を取り込んだものの、1年余りで値上げせざるを得なくなった楽天モバイルの窮状は、「官製値下げ」の限界を示したともいえる。
格安プランが続々と生まれた
「官製値下げ」は、総務相を経験して情報通信行政に詳しい菅前首相が、官房長官時代に携帯電話料金の水準が海外に比べて割高であることを問題視し「4割程度下げる余地がある」と公言したことに端を発する。
そして、20年9月に首相に就くやいなや、「携帯電話料金の大幅引き下げ」を政権の看板政策として掲げた。発足時は7割を超える高い内閣支持率で、国民の期待を一身に集めた感があった。
菅前首相の意を受けた当時の武田良太総務相は、「できる・できないではなく、やるか・やらないかだ」「1割程度の値下げでは改革にならない」と、通信業界に料金引き下げを迫ったが、その圧力は半端ではなかった。
大手3社は当初、サブブランドでの割安プラン設定などの弥縫策でかわせると踏んでいたようだが、菅前政権の強硬姿勢に抗し切れず、最後は渋々、メインブランドに格安プランを用意することになった。
そして昨春、オンライン専用ながら、NTTドコモは「ahamo(アハモ)」、KDDI(au)は「povo(ポヴォ)」、ソフトバンクは「LINEMO(ラインモ)」の名称で、データ通信20GBで月額3000円を切るプランを相次いでスタートさせた。
ここに割り込んだのが、本格参入から1年にも満たない楽天モバイルで、目玉に掲げたのが「0円プラン」だった。
一方、大手3社よりも低額のプランを設定し、加入者を増やしていた格安スマホ各社も、対抗する形で次々に新しい「お得プラン」を導入。値下げ競争による顧客争奪戦が火花を散らすことになった。