雇用が安定しない人は財布のひもを締める
——教授は著書の中で、日本の大企業が終身雇用世代の年配社員を積極的に切り捨てない一方で派遣社員を増やし、正社員の採用を手控えてきたことは「マクロ経済的パフォーマンスを弱体化させている」と指摘しています。
第1回でも話しましたが、経済格差は消費者の需要を減少させ、経済停滞を招きます。(非正規労働者のように)雇用が保障されていなければ、財布のひもを締めますよね。特に、マイホームや車といった大きな買い物はしません。
賃金抑制や不安定な雇用は消費や経済成長の足を引っ張ります。
——外国人労働者が日本の人々の賃金に与える影響はどうでしょう? 保守派、リベラル派ともに、日本では、依然として移民や外国人労働者が増えることに抵抗を感じる人が少なくありません。岸田政権の「外国人労働者受け入れ拡大」策に対する批判も根強いです。安価な労働力に頼ることが日本人の賃金をさらに押し下げるのではないか、と。
たぶん日本人の賃金に与える移民の影響はあまりにも小さい、というのが私の答えです。
パンデミック以前に(安倍政権下の)日本を訪れ、日本政府関係者と話しましたが、新規移民の受け入れ数は人手不足を補うレベルには至っていないため、日本人労働者の賃金に大きな影響が及ぶはずはないということでした。
移民の影響がゼロだとは思いませんが、例えば、100万人不足しているセクターに10万人の移民を受け入れても、同セクターの賃金の状況は基本的に変わらないでしょう?
(次回に続く・第3回は6月8日公開予定)
カリフォルニア大学バークレー校教授
政治経済学者。先進国、主に日本の政治経済が専門。プリンストン大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号(政治学)を取得。ジャパン・タイムズの記者として東京で、フリージャーナリストとしてフランスで勤務した。著書に『Marketcraft: How Governments Make Markets Work』などがある。