正社員か非正規社員かという柔軟性のない働き方が生産性を下げている
日本が、「ハイヤー・アンド・ファイアー(採用と解雇)」を繰り返す米国の労働市場を目指し、雇用の保障をおろそかにするような国になるべきだとは思いません。失業者のセーフティーネットを強化するのは、いいことです。しかし、だからと言って、労働市場の柔軟性を高めるために雇用の保障を減ずるべきだとは思いません。
労働市場の柔軟性は、(解雇を容易にするという)雇用側の柔軟性のみで語られるべきではなく、被雇用者・従業員にとっての柔軟性も考えるべきです。
例えば、正社員か非正規労働者かの二者択一ではなく、後で詳しく説明するように、さまざまな雇用形態という選択肢を増やすことも、柔軟性を高める一手です。労働時間や勤務場所をフレキシブルにすることも、生産性向上に役立ちます。
労働市場にある程度の柔軟性が生まれることはプラスとも言えます。ただ、それが解雇規制緩和に限った話で、日本企業が(米国企業のように、自由な雇用調整など)何でもできるようになることを意味するとしたら、日本ではそうした状況にはならないと思います。
日本とアメリカでの「労働コスト削減」へのスタンスの違い
——教授の著書によると、日本政府は失業者の救済措置に修正を加えつつ、セーフティーネットの大幅なてこ入れは行わなかったといいます。「失業者を支える政策(労働者の保護)に力を入れるよりも、雇用継続(職の保護)を重視している」と。教授が言うように、雇用の保障・継続がいいことだとすれば、正社員の雇用を守ることは、日本経済に何らリスクを及ぼさないということですか。
景気後退に陥っても、日本企業に労働コスト削減のすべがないとしたら、もちろん、それは企業にとってリスクとなります。しかし、実際のところ、企業にはコスト削減の道が多々開かれています。事実、日本企業は1990年代に、労働力カットを伴わない労働コスト削減をうまくやってのけました。
米国の企業がレイオフを急ぎすぎるとしたら、日本企業はその逆で、レイオフへの動きが鈍すぎるかもしれません。その違いは、労働コスト削減に対する日米企業のスタンスの相違にあります。
まず、米国の企業がレイオフに走るのは、一律に賃金を下げれば、従業員の士気が下がり、不満を招くと考えるからです。だから、賃下げよりもレイオフを選ぶのです。レイオフされなかった人々はハッピーですよね。レイオフされた人々は不満でしょうが、いなくなるのですから、「もう関係ない」と会社側は考えるわけです。
つまり、米国企業の管理職にとっては、一律の賃下げよりもレイオフのほうが簡単なのです。
ひるがえって日本企業は、レイオフが会社の評判を傷つけることを懸念します。レイオフの大ナタを振るえば評判が下がり、景気が上向いたとき、求人・採用に苦労するのではないかと考えるのです。日本企業が、レイオフによる人件費削減よりも社員の賃金を抑える道を選ぶのは、そのためです。
賃金を上げず、新規正社員の採用を手控え、ボーナスや残業代を削ることで、レイオフなしに労働コストを削減するのが日本流のやり方です。もし私が日米いずれかのスタイルを選ぶとしたら、日本流のコスト削減方式に軍配を上げます。