小さい領域だけで活動するのは、人生がもったいない
一方、ビル・ゲイツとジェフ・ベゾスについて感心するのは、自分が作り上げた会社をあっさりと引退して、次の道に進んでいることです。
もともとビル・ゲイツは、一人のソフトウェアエンジニアにすぎませんでした。それがマイクロソフトを創業し、巨万の富を得たわけです。
これだけでもすごい話ですが、その富や地位にしがみつくことなく早々に引退し、築いた富を環境やバイオテクノロジーにどんどん投資して、世の中の変化を加速させようとしているのですから、社会全体を見る視野の広さには感服するしかありません。
ビル・ゲイツの生き方を見ていると、自分がちっぽけな存在に思える一方、「小さなことに悩まず、もっと視野を広くしていこう」という気概が生まれ、力を得た気持ちになります。
ジェフ・ベゾスも、アマゾンをあっさり辞めてしまいました。私だったら「ここまで成長させたのだから、もっと自分で経営したい」と考えてしまいそうですが、彼は宇宙開発に向かい、宇宙旅行を成功させています。
シリコンバレーにいると彼らの活動をより身近に感じられ、「小さい領域だけで活動するのは、人生がもったいないな」という気持ちにさせられます。
振り返ると、私はサンリオでハローキティの海外展開というテーマに集中していたわけですが、もしあのままそれだけに人生をかけていたらビル・ゲイツやジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、ジャック・ドーシーのようなダイナミックな人生のシフトに目が向くことはなかったかもしれないとも思います。
シリコンバレーで視野が開かれたことによって、私は今、一つの会社に縛られることなく多くの会社に関わる道を選び、そのダイナミズムを楽しんでいます。
「一つの仕事にこだわることは、もったいないかもしれない」ということを、みなさんにもぜひ一度考えてみていただければと思います。
スタンフォードのAI研究者が「災害の被害予測」で起業した理由
③信念を貫け
みなさんは、何のために今の仕事をしているのでしょうか?
「もちろん生活費を稼ぐためだ」という人も多いかもしれません。
それは現実として必要なことではあるのですが、たとえばこれから転職を考えるなら、「自分はどういうことに信念を持って働いているのか」をきちんと考え、その信念を貫くことを大切にしてほしいと思います。それは、信念に基づいた仕事には強靭さがあるからです。
かつてスタンフォード大学でAI研究をしていたアマッド・ワニは、インドの自宅に帰省したときに大洪水に見舞われ、崩壊した自宅で1週間にわたり生死の境をさまようという体験をしました。
彼はその強烈な体験から、自然災害の壊滅的な被害を軽減することの重要性を認識し、「予測できない惨事」を予測しようと考えました。そしてスタンフォードに戻った彼がAI研究者と一緒に立ち上げたのが、ワン・コンサーンという会社です。
ワン・コンサーンは私も支援しているのですが、私がアマッド・ワニの創業ストーリーを聞いて驚いたのが、その信念の強さです。
スタンフォードのAI研究者ですから、望む会社に高額な給与で入れる立場なのですが、それには見向きもせずに、さほど儲かりそうもない災害の被害予測という課題に取り組もうとしていること、それ自体が驚くべきことだといえるでしょう。
シリコンバレーのスタートアップというと、最先端の華やかなビジネス、新しいサービスを好む先端的なユーザー像などをイメージする人が多いのではないかと思います。シリコンバレーに対して、ガツガツした起業家が集まるところだという印象を持つ人もいるでしょう。
それもシリコンバレーの一面ではありますが、一方でアマッド・ワニのように、「世の中をよくしたい」ということだけを考え続けているような強い信念を持つ起業家もいるのです。
私が彼を支援しているのは、その姿勢に感銘を受けたからであり、もちろん彼の周りには私だけでなく、多くの支援者が集まっています。