高齢者は「長生き」より「元気でいること」を求めている

こうした高齢者からの圧倒的な支持を肌と数字でもって感じたこと。それは、多くの出版関係者は、本や雑誌のメインの読者年齢層がどんどん上がっていたのは知っていたものの、せいぜい60代までだろうという思い込みのためにビジネスチャンスを逸していたのではないか、ということだ。いや、出版だけではない。これは他のすべての業種も経営者も同じだ。

私は長年高齢者を診察し続け(今年で34年になる)、今の高齢者というものをウオッチしてきた。だが、彼らにこれほどITリテラシーがあることや、欲しいと思ったものにアクティブであることを見落としていた。多くの経営者やビジネスパーソンは、それ以上に高齢者のニーズをつかめていないに違いない。

実は、出版社というのは1冊本が売れると次々とオーダーがくるのだが、高齢者向けの企画をやりたいというテレビからのオファーは皆無であり、一般企業からもビジネスのヒントがほしい、といった申し出はまったくない。

ここしばらく売れている私の本の中で共通して述べているのは、高齢者にとって大事なのは「長生きすること」よりも、「元気でいること」だ。

写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです

たとえば、血圧や血糖値を下げる薬を使うと長生きできるかもしれないが、高齢になると誰でも動脈硬化が起こっていて血管の壁が厚くなっているのだから血圧や血糖値が正常よりやや高めのほうが、一般的に頭がシャキッとする。それを選んでいいのではないかといった提言をこれらの本で行っている。

高齢になると栄養にしても、過剰の害より不足の害のほうが大きくなる。やや太めの人のほうが健康長寿なのはそのためだ。

高齢者の交通事故にしても、高齢ゆえに動体視力や反射神経が落ちて、急に道路に飛び出してくる子供をよけきれなくなって……という案件が大きく報じられているわけではない。

ふだん暴走や逆走をしない人が突然、そのような状態になったとしたら、何らかの意識障害(つまり脳が眠ったような状態になること)の可能性が高い。高齢者を専門とする医師としては、そう判断できる。

こういうことの原因に血圧の下げ過ぎや血糖値の下げ過ぎ、あるいは塩分の控えすぎによる低ナトリウム血症がなり得る。

事故を「高齢だから」のひとことで片づけるから見えてこないが、いろいろな検査データによって数値の下げ過ぎが問題にされることはない。しかしながら、血圧も血糖値も一日の中で変動する。正常値を目標にすると低血圧や低血糖が起こりやすい。