友人まで、長男を応援しはじめた
その後も説得は続いた。といっても、私が長男を説得するのではなく、私が長男に説得されていた。長男によると、コケコッコーと未明に鳴くのはオスだけらしい。「採卵したいからメス。オスは飼わないから大丈夫」とのこと。その後、私の出張中に大家さんの許可まで取りつけてきた。狡猾だ。けれど、どんなに大人の許可を取り付けたって、わが家には庭がない。「やっぱり無理だよ」と言うと、長男はわざと聞いてない素振りをした。私はモヤモヤした気持ちを吐き出すように、彼の奇行(?)をブログに書いた。
すると、思いもよらぬところから、思いもよらぬ展開が生じてしまった。山の上でカフェを営む友人の剛くんが、養鶏経験からアドバイスしようと息子を訪ねてきたのだ。
彼は対馬の在来の馬・対州馬のほか、ヤギや犬や猫と暮らしていて動物が大好き。私のブログを読んで、動物に関心を寄せる長男に共感してくれたのだそう。またも私が蒔いた種だった。私は種蒔き名人だな。
養鶏ができる土地を自ら近所で探していた
その数日後、今度はべつの友人が、私の知らぬところで養鶏の本を手渡していた。あとで知ったが、これが『自然卵養鶏法』(中島正著 農山漁村文化協会刊)という本で自然養鶏のバイブル的な存在なのだそうだ。さらに、近所の人と顔を合わせると、「息子さん土地見つかった?」などと訊かれるようになった。なんのことだ⁉ たずねると、こう返ってきた。
「息子さん、ニワトリ飼う土地探しとっとやろぉ」
なんと! 息子は養鶏させてもらえる土地はないかと近所に聞いてまわっていることが判明。私が日々仕事と家事と末っ子の世話に追われている間に、長男の養鶏熱はますます高まり、どんどん状況が変わっていく。焦った。
いや、もちろん、息子を応援してくれる人たちの厚意をありがたいと思わないわけじゃない。でも、ただでさえ慌ただしい毎日。仕事と家事で手いっぱいなのに、わが家に動物の世話が加わるなんてまっぴらごめんだ。それだけじゃない。周囲からの苦情もあるかもしれない。子どもの自由な発想はいいが、最終的に責任は親に向けられる。人生の中で一度も動物を飼ったことのない私は、正直面倒くさかったのだ。しかもペットじゃなくて家畜だなんて。