また「ウイスキーはお好きでしょ」とバックに流れるやるせなさの残る魅惑的な歌唱は、同社が過去のCMで使っていたもののリバイバルだ。ただその際は石川さゆりが歌っていたのだが、ハイボールも昔のままでなく「少し新しくしている」という意を込めて、ゴスペラーズにカバーしてもらっている。このCMは、コピーとBGMとの絶妙のマッチングにより、ターゲット層だけでなく年配の方々にも受けがよく、あの店に行ってみたいという声が多く上がったそうだ。現在、このCMのメーンキャラクターは、菅野美穂に代わっている(11年9月より)。変更の理由を尋ねたところ、ハイボールの浸透度が高まったからなのだという。バーや居酒屋のような外だけでなく、家庭でも気軽に飲んでもらえるイメージを普及したいがゆえに、庶民的で明るいイメージの菅野美穂にしたというのだ。コピーも、小雪のときのような完璧なハイボールをつくるというのではなく、慣れない新米店長が、ぎこちなくハイボールをつくるというストーリーである。これにより家庭への親和性を高め、ハイボールは誰でも家庭で手軽につくれておいしく飲めるということをアピールしたかったのだという。
時代を反映してWebを有効活用したマーケティング・コミュニケーション戦略も実行している。特筆すべきなのが、ブロガーイベントだ。これは角ハイボールプロジェクト発足当初(08年夏)からすでに始められており、情報発信力のあるブロガーを蒸留所などに招待してウイスキー製造工程を見てもらい、実際にハイボールを体験してもらうというイベントだった。かなり大規模なもので、ブロガーを通じて呼びかけたところ、全国7地区で合計1万800人が試飲に参加し、その印象がブログにアップされた。広報部の日色由紀子氏によると、「ブロガーさんたちは、こだわりが強くて、グラスをしっかり冷やすとか、氷はたっぷりとか、そういうことにすごく共感していただいて、皆さんが記事を書いてくださいました」とのことだ。
また前記の通り、ハイボールのつくり方に関しては、この製品の本質を握るまさに生命線をなすものなので、「おいしい角ハイボールの作り方ムービー」というものをサントリーでは作成し、ホームページ上にアップしている。これは、小雪が上記の「角ハイボールこだわり3ヶ条+1」にそってハイボールをつくる過程を披露したものである。このムービーのURLをブロガーたちが記事中に貼り付けることによって、口コミの輪は大きく膨らんでいった。YouTubeにアップされてからは、わずか1カ月で105万2935アクセスと、広告費に換算して約1億円分の価値を生んだという。