リピーターとなるのはどんな顧客か
さらに同社の取り組みで興味深いのは、料飲店自体を「体験メディア」と位置づけ、積極的に広告手段に活用している点だ。テレビCMのイメージとかぶる小雪や菅野美穂のポスターを居酒屋にベタベタと多数貼ってもらい、来店客にハイボール体験を促したのである。08年時点ではまったくといってよいほどハイボールの取り扱いがなかった居酒屋が09年末には6万店に増え、今では実に18万店にも上っている。このポスターが誘引するハイボール体験効果は決して小さなものではないだろう。
チャンネル面では、ハイボールを専門に取り扱う「ハイボールバー」という新業態を開発している。ここでは、小雪の広告イメージと同じような長いバーカウンターを設置し、ハイボールタワーという炭酸ガス圧の高いハイボールをつくれるマシンを常備して、角だけでなく山崎、白州、ジャックダニエルなど6種類のウイスキーのハイボールをつくれるようにしている。現在、この業態は新橋、浜松町、赤坂など5店舗だが、さらなる展開を目論んでいる。
ただ、このハイボールバーはサントリーの直営ではなく、すべて別にオーナーがいる。それゆえ、同社では製品のコンセプトに合わせた従業員教育や店づくりの提案もあわせて行っているのだ。実はハイボールバーに限ったものではなく、新製品を出す際にこの種の教育はとても重要だ。
ウイスキー部では09年7月から1カ月間、居酒屋で角ハイボールを飲んだ人を対象にQRコードを使ったアンケート調査を実施している(合計6518サンプル)。ここでは、氷、アルコール濃度、炭酸などについて満足度を尋ねているのだが、それらに対する満足度が高い人ほど、リピーターになる比率が高くなるという結論を得た。
また同部で毎月実施している首都圏Web調査でも、リピート率を高めるための料飲店教育の重要性を示すデータが得られていた。この調査では、20~50代の男性600人に角ハイボールの飲用経験を尋ねているのだが、09年の3月、4月には、飲むのを「中止したい」とする人の割合が目立って増えていた。この理由は、同時期にハイボールの取扱店舗が一気に増え、「3ヶ条+1」が守られなくなったからである。そこで、同社では「3ヶ条+1」普及運動を始め、おいしい飲み方のステッカーを作成し、品質チェックのためのアフターフォロー等を強化した。これらの努力によりその後中止者は減少し、対照的に試飲者やリピーターが増加していったのである。
ハイボールという「古の製品」は、新たなターゲットの発見、地道な飲用品質の向上、そしてテレビCMとブログとのコラボによる立体的なコミュニケーション活動等によって、「古くて新しい製品」として見事にリバイバルを果たしたのであった。