2009年から始まったノンアルの歴史

日本における清涼飲料の歴史は長いが、ノンアルコールの歴史は短い。市場が動き出したのは、2009年「キリンフリー」(キリンビール)の発売からだ。

商品開発のきっかけは、2007年の飲酒運転の厳罰化(同年の道路交通法改正)だった。その前年に福岡県で飲酒運転の車に衝突されて幼児3人が死亡する痛ましい事故が起き、大きな社会問題となった。これを受けて同社は「運転前に安心して飲める商品」を開発した。

「キリンフリー」は、世界初の「アルコール分0.00%のビール風味炭酸飲料」だという。次いでサントリービールから2010年に「オールフリー」が、2012年に「アサヒ ドライゼロ」が発売されて、大手3社のビール風味ノンアル飲料が出揃った。

一方、消費者の健康意識の高まりは少し前から始まっていた。2006年に「メタボリックシンドローム」(メタボ)が新語・流行語大賞に入賞し、2008年に厚生労働省による「特定健診・特定保健指導」も始まった。少子高齢化が加速し、将来の年金不安も続く。

こうした流れを受けて、「できるだけ健康で働き続けたい」意識は強くなった。かつては職場に、健康診断の悪い数値を競い合う“不健康自慢のオジサン”がいたが、最近は見かけなくなった。

ノンアルでも「ビールっぽいもの」が飲みたい

現在の話に戻ろう。アサヒビールが消費者調査をすると「在宅勤務が多くなり、仕事とプライベートの区分がなくなった。何かでメリハリをつけたい」と話す人は多いという。

同社はドライゼロの飲用シーンとして、次の6つを掲げている。

(1)スポーツ後の爽快感に、(2)テレワーク合間の息抜きに、(3)まだやることがある夕食時に、(4)翌朝が早い夜の晩酌に、(5)料理の準備をしながら、(6)趣味のアウトドアで、の6つだ。コロナ禍の生活実態も強く意識するが、より選ばれるシーンは何か。

「やはり食事と一緒が多いですね。平日の在宅勤務は、仕事中なのでアルコールを摂取したくない。昼食時に登場する回数も増えています」

「酔わないノンアルは身体がラク」という人もいる。同じノンアルでも、レモンサワーなどのチューハイ風味ではなく、ビール風味を選ぶ理由は何だろう。

「昔からビールが『1日のお疲れさま』として選ばれていたように、リフレッシュ気分が強いのでしょう。ノンアルでも『ビールっぽいのを飲みたい』方は多いです」

「酔っぱらうのがカッコ悪い」と思う世代に向けて

ところで、ずっと前から夜の居酒屋では「最近の若者は酒を飲まなくなった」と中高年世代がこぼしていた。実は数字でも裏づけられている。

成人1人当たりの酒類消費数量の推移」というデータ(国税庁統計年報)がある。

それによれば、平成以降は30年前の1992年(平成4年)をピークに全体数字は減少。現在はピーク時の8割未満に落ち込む。「飲酒習慣のある者の割合」の年代別では20代が圧倒的に低い。

「若い世代では、お酒に対してネガティブイメージを持つ人も多く、必要以上に酔っぱらった大人の姿を、カッコ悪いと思っています」

欧米には「ソバーキュリアス」(Sober Curious)という考えが広まってきている。飲めるけど、あえて飲まない(少ししか飲まない)という生き方だ。

こうした層も意識して、アサヒビールが行うのが前述の「スマドリ」で、微アルコール商品にも注力する。2021年3月30日に「アサヒ ビアリー」(アルコール度数0.5%)を発売後、6月29日に「アサヒ ビアリー 香るクラフト」(同)を追加投入。9月28日には「アサヒ ハイボリー」(0.5%、3%の商品もある)を発売した。今年は5月17日にスパークリングワインテイスト飲料「ビスパ」(0.5%)の発売が予定されている。

提供=アサヒビール

ノンアルや微アルで「飲み方の多様性を提唱し、多様な選択肢」という戦略だ。