「入社してから一度も考えなかった危機的状況」
きっかけは新型コロナウイルスの蔓延だ。
同社では、以前から地域貢献イベントとして年に1、2回、東京総合車両センター(品川区)や各地の車両センターなどで、車両の紹介や車掌体験など大規模な無料公開イベントを行っていた。しかしコロナ禍で2020年春以降、そうしたお祭りごとは軒並み中止になってしまう。
間もなくグループの赤字転落が現実味を帯び、「入社してから一度も考えたこともなかった危機的状態」に陥った。社員みなで、旅客収入以外で収益を生み出せる商品を試行錯誤していたと話す。
始まりは秋田支社が始めたマニアックな企画
そうした中、JR東日本の地域支社である秋田支社が「電気式気動車(GV-E400系)運転体験」という企画を2021年初夏に発案する。指導運転士つきで片道約100mの区間を本物の気動車を運転できてしまう大胆なものだ。
商品として売るには、運輸局との折衝や気動車の調整など手間がかかるやっかいなものだったそうだが、現場の熱で実現可能になった。
販売ルートを持たない支社の代わりに、JRE MALLでこの商品を売り出すと、1組1万5000円と高価格ながら完売したのだ。
これをきっかけに、車両撮影会や乗務体験などの商品企画が続々と上がってくるようになった。各支社の企画担当者だけでなく、各地の車両センターや運輸区、駅からも企画が上がってきた。それらをJRE MALLの担当者が整理し、昨年夏以降に少しずつ発売していった。
ショッピングサイトなのに鉄道イベントがメイン
これに即座に食いついたのが、撮り鉄をはじめとする熱心な鉄道ファンだった。「JRが何か面白いことを始めた」という情報は、彼らのコミュニティーで一気に拡散した。
彼らにとって、車両をJRの許可のもと、誰にも文句を言われず、ゆっくりと堪能できる機会はそうない。商品の企画の良さもあって、発売してすぐに完売する「即完」商品が多々生まれている。
最近だと、今年1月に品川駅構内で開催された「『往年の名機、一堂に会す。』撮影会」が大ヒットだったそう。東海道本線にゆかりの深い歴代車両を展示、車両撮影会を行う企画だ。参加費2万7000円(一部日程は3万円)と強気な価格設定にもかかわらず、270口がたったの3分で売れた。