完全にボトムアップの商品開発

前述したが、スタートして9カ月で、このカテゴリーだけで累計5000万円以上を売り上げている。

「これまで販売した商品を考えているのは本社ではなく、現場で実際に、車両メンテナンスや乗務員をしている社員です。本社や支社から過去例などを参考にアドバイスはしますが、完全にボトムアップ型の商品開発です。

鉄道に詳しい社員がいる現場もあれば、参加者からのアドバイスを受けて改良を進めるのが上手い現場もある。それぞれの現場が工夫を凝らして今までにない個性的な商品作りをしているところが、ヒットした要因かと思っています」

JR東日本は、2025年にJRE MALLの取扱額として1300億円を目指している。そんな中で、「鉄道イベント・体験」のカテゴリー売上額は決して大きくはない。だが、大きなメリットがあるという。

目先の売り上げよりも大きなメリットがある

「売り上げ面での社への貢献はもちろん考えています。われわれとしては現場の社員がそれぞれの商品企画を通して、前向きにプロジェクト管理や収支管理といったビジネス感覚を養えていることが、大きな効果と考えています」

企画の規模は小さいが、プロジェクトの当事者として関係先との調整、効果測定までを行うことは仕事の進め方の勉強になろう。また、参加者と接することで、自分の仕事の価値をダイレクトに再確認できることもある。

「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供から豊かな社会を目指す、グループの経営ビジョンにも通じるとともに、社員教育となっているのです」

切符や不動産とワケが違う

順調に見える企画だが、担当者の目下の悩みは価格設定だ。

これまで車両公開は原則無料のイベントだったので、社内からは「有料にしていいものか」と反対の声もあった。

とはいえ、清掃や車両整備に人件費はかかるし、日常業務の妨げにならないように車両や場所を確保する手間もある。イベント実施中の安全確保も含めたオペレーションももちろん考慮しなければならない。

JRがこれまで販売してきた主な商品は切符と不動産である。そうした商品と違って、コト体験は、原価や経費に基づいた値付けが難しい。顧客ニーズ次第でもある。レアな体験であるほど、値付けは高くなるのが一般的だ。

とはいえ、イベントのほとんどは値段に関係なくほぼ完売している。これが値付けを一層難しくさせている。

「参加者の方からは『もっと払えますよ』と言ってもらったりもしますが、利益を取りすぎてはいけないと思っています。もちろんイベント実施にむけ、日々の業務とやりくりしながら社内調整を行うなど、相応に人件費はかかりますし、採算度外視でやるわけにはいかないですが、適正な価格は模索中です」