実際に参加してみてわかった企画のすごさ

撮影会の様子を知るため、筆者は、今年3月に東京総合車両センターで開催された「国鉄型事業用電車クモヤ143形撮影&実演会」に参加してみた。

馴染みのない名前であるが、クモヤ143形は、国鉄時代に従業員の運送や路線点検などに使われた電車で、ほとんどが廃車されている貴重な車両だ。

そのレアな車両の撮影イベントの参加費は一人8000円。約100人(各回18人定員×6回開催)の募集をかけたところ、およそ3日で完売したそう。

いざ会場に向かうと、参加者のほとんどは、プロ顔負けの撮影機材を抱えた鉄道ファンだった。

実施概要を真剣に聞く参加者たち
撮影=プレジデントオンライン編集部
実施概要を真剣に聞く参加者たち

担当者による説明が終わると、クモヤの前に移動する。参加者は個人がほとんどで、雑談することなく静かに器材をセッティングしていく。

人数は多くないので、お互いに距離を保ちつつ行儀よく撮影しているのが印象的だった。

指定エリア内であれば、どう撮ってもかまわないので、線路の間に腹ばいになって超ローアングルの画角を狙う参加者の姿も。営業路線では絶対許されない姿に、車両センターの社員からは「見ているだけでぞっとします」と苦笑する声が聞こえた。

線路から貴重車両を見上げて撮影
撮影=プレジデントオンライン編集部
普段では絶対にできない角度から車両を撮影する

ファンのリクエストに真摯に応える

撮影は車両だけでなく、装備されたクレーンを使った作業風景や車両内部も行われた。さらには警笛を鳴らしたり、パンタグラフを起動したりする動画向きの企画も特別に実施された。

各支社は撮影会の企画・実施だけではなく、参加者に書いてもらった全てのアンケート内容に目を通し、次回の企画に生かすよう努めているそうだ。

今回のクレーンを動かす場面の撮影も、以前のアンケートにあったリクエストを実現したという。

クレーンによる作業風景
撮影=プレジデントオンライン編集部
非常にレアだというクレーンによる作業風景。参加者たちは興奮気味にシャッターを押していた

「鉄道ファンを楽しませる」に本気で取り組む

参加者の声を聞いてみた。

「事業用車両は撮影できないものだと思っていたので、すごくうれしい。8000円は安いので、午後の撮影会にも参加します」

別の参加者は「これまでは無料開放日に人混みの中で、親子連れの中に交じってなんとか目当ての車両を撮影していた。これはすばらしい試み。JRはお堅い会社だと思っていたがそのイメージがガラッと変わった。お宝車両は他にもあるので、もっと出してほしい。例えば、皇室関連の車両は激レアなんで、撮影会が行われるなら30万円でも余裕で払います」と熱っぽく語る。

また、「警笛を鳴らすときに、もう一方の車両のパンタグラフを落としたの気がつきました? あれで隣の車両の起動音を消しているんです。そういう気遣いが素晴らしい。神イベントでした」と称賛する声もあった。

コロナ禍以前のJR東日本は、こうした鉄道ファンに対して「気遣い」をみせることはほとんどなかった。むしろ悪質な「撮り鉄」のマナー違反に頭を悩ませていた。ところが現在では、「どうすれば鉄道ファンに楽しんでもらえるか」を本気で考え、まるでテーマパークのように参加者をもてなしている。イベントの満足度が高いのもうなずける。