周囲への要求水準が高くなって、医療従事者とトラブルに

「在宅で過ごす人を支える家族は、一生懸命やりすぎちゃうパターンと、全く介護に協力しない、放棄パターンの二つに分かれやすい。バランスよくできる人がいないわけではありませんが、少ないですね。それから介護をする気持ちはあっても、経済的に困窮していてやむなく家で過ごすことになり、家族は日々の仕事で精一杯で、介護まで手が回らないケースもあります」

患者への思いが深いのはすばらしい。けれども、その考えが本当に本人の幸せにつながるのか、自分の築いてきた「こうすれば幸せになる」という価値観にとらわれたものでないか、一歩引いて見つめ直すことも重要だ。特に仕事で成功をおさめている人は老化や死を受け入れられず、「“がんばればよくなるんじゃないか”と周囲への要求水準が高くなって、医療従事者とトラブルになりやすい」という。

千場医師は“三方よし”を胸に置いている。患者本人、医療従事者と介護職、そして主たる介護者である家族だ。

のぞましい最期へのキーワードは「家・人・金」

「本人だけがよくても家族が疲れてしまう可能性があるし、家族だけがよくてももちろん良くない。だからいろんな投げかけで、本人や家族に聞き、さまざまな結論を導きます。ただ本来は誰もが元気な時に“のぞましい最期”を考えておく必要があります。キーワードは家・人・金です」

「家」とは自宅に限らず、施設でも病院でもいいが、安息に自分が最期を迎えるための場所のこと。次に「人」とは、その場所を確保するための手続き、たとえば自宅であれば同居して“介護を最後まで引き受ける人の合意”を得ること。

千場純『わが家で最期を。 家族の看取り、自分の“そのとき”に後悔しない50の心得』(小学館)

「それは大概、配偶者や子供、親兄弟の親族になりますよね。残る“金”も大事な問題です。死ぬまでの生活費、療養費の出費を考えておかなければなりません」(千場医師)

さてここで、実際に家で死ぬ場合の費用がどれほどかかるのか、気になる人もいるだろう。

それについては千場医師の著書『わが家で最期を。』(小学館)に詳しいシミュレーションが示されているので参考にしてほしいが、ざっくりと「要介護3~5の区分での介護費用と合わせた自己負担額は月額6万円くらい」という。

「うちの診療所での在宅診療を受けられる方が看取りのための費用として考えておく金額は、最後の数カ月の総額で30万円未満ですむと思います」(同)