夫の「手取り足取り」に妻がげんなりしてしまう

「いや先生、ちょっと今は体がついていかないです。もう少し体に自信がつかないと……」
「だから気持ちが乗ったらで」

千場医師がなおも勧めると、夫は「いやいや」と繰り返すのだった。

「先生からそういう声がけがあるたびに、本人はやりたいなという気持ちになるみたいですが、ちょっと今は体がついていかないみたいで」

それに対し、妻は肯定も否定もせず、あいまいな顔で笑っている。

後で聞いたところによると、夫の“手取り足取り”に妻がげんなりし、一時期は歯車が噛み合わなくなったという。 

実際に今の夫婦の様子を見ていても、その“手取り足取り”がわかるような気がした。千場医師は妻に質問をしている。妻はしばらく考え、自分で答えようとする。しかしそれを夫が待っていられずに遮り、自分が本人の代わりに答えてしまうのだ。もう少し待っていれば妻は自分で答えられるかもしれない。日常生活も同様に、妻が自分でやろうとすること、時間をかければ一人でできるようなこと、例えば着替えや食事、トイレなどを夫が先回りして手伝ってしまうのではないかと感じた。

「妻への依存度」が高くなりやすい日本の高齢男性

「ご主人は大変なことはありますか」

私は夫にそう問いかけた。すると、

「大変なことは、うまくコミュニケーションがとれないことですかね。こっちが短気だから」

と、肩をすくめる。妻は、「そんなことない。短気じゃない」とやはりほほ笑みながらゆっくり言う。

なんだかんだいって、仲のよい二人ではある。ただ、夫にとって生活のすべてが「妻の体」になってしまい、これでは双方が息苦しくなる時があるだろうと感じた。妻以外に目を向けること、妻の回復以外の楽しみを見つけたほうが、かえって二人とも笑顔になれるのではないかと思った。しかし、日本の高齢男性は“配偶者がいなければ何もできない”というような「妻への依存度」が高くなりやすい。

「家族の愛情のさじ加減は難しいですよね」

と、湘南鎌倉総合病院で訪問診療を請け負う吉澤和希医師も指摘する。

湘南鎌倉総合病院の吉澤和希医師
撮影=笹井恵里子
湘南鎌倉総合病院の吉澤和希医師