職員らは「どうせ仮病」だと決めつけていなかったか

まずすべきは、今回の経過および死因の徹底的な検証だ。それは映像および記録をすべて公開し多くの医療関係者の目を通したものでなければならない。関与した職員、庁内医師や外部医師、そして最後に対応した救急科の医師やスタッフすべてから行われた処遇や医療行為だけでなく、外国人差別体質がなかったかなどについて詳細な聴取を公開の場で行うことも必須である。

これらを最初から検証し直して初めて再発防止策を検討することができるのであって、医療体制構築はその後の話だ。

有識者は医師が「診療を申し出た被収容者に対していわば受動的に対応していた」ことが問題であったとしたが、そもそも被収容者は何度も訴え出ても医療になかなかつなげてもらえていない。自分から能動的に医療機関を受診できず、許可が出て初めて直接医師に症状を訴えることができる、つまり被収容者こそが受動的な立場に置かれているのだ。

被収容者から体調不良の申し出がなされた場合に、そもそも医療知識のない処遇担当職員が受診の要否を判断していたのであれば、それも大きな問題だ。「どうせ出たいがための仮病だ」「気のせいだ」などとの“決め打ち”を勝手に職員レベルで行ってはいなかったのか。先入観なく真摯に声に耳を傾け、予断なく迅速に医療につなげることは言うまでもないが、常に健康状態をチェックする体制も構築されねばならない。

収容時には本人の申告や持参薬の情報だけに依存せず、メディカルチェックを全員に行い、治療を要する疾患を有していないかを把握すること。また定期的な健康診断、メンタルカウンセリングも必要だろう。

嘲笑した職員、なおざりな医師、法務省、そのすべてに責任がある

「最終報告書」では今後の対策として「外国人である被収容者の体調等を正確に把握できるようにするため通訳等を積極的に活用すること」とされたが、今まで通訳なしでどうやって健康チェックをしていたのか。訴えを理解しようとしないまま収容していたのであれば、ただ人権を奪って閉じ込めていただけではないか。

機器や施設といったハード面はもちろん必要であるし、医療体制というシステム面もより強固に見直す必要は言うまでもない。しかしそこで働く職員、看護師、医師そして施設管理者、さらにはこれらの組織を司る行政の責任者らの意識の中に、外国人に対する差別感情が内包されていなかったか。組織内部に外国人を蔑ろに嘲笑しても許される風土はなかったのか。これらを徹底的に検証し、抜本的な組織改革につなげていかない限り、また同じ悲劇が繰り返されることになるだろう。

ウィシュマさんに心ない言葉をぶつけて嘲笑した職員、それを批判せず看過した同僚に施設管理者、精神的なものと決め打ちして深く病態を見極めようとしなかった医師たち、そして事実を隠し続けている入管庁、法務省。彼らすべてがこの「ウィシュマさん見殺し事件」の責任から逃れることは許されない。

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