名古屋出入国管理局に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんが亡くなってから1年がたつ。出入国在留管理庁が発表した調査報告書を読んだ医師の木村知さんは「尿検査で異常値が出ても、入管の医師たちはウィシュマさんに適切な医療を行わなかった。入管は死因を『病死』と結論付けたが、鵜呑みにすることはできない」という――(第1回/全2回)。
死亡したスリランカ人女性・ウィシュマ・サンダマリさんの遺影を横に記者会見する妹のポールニマさん=2021年10月5日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
死亡したスリランカ人女性・ウィシュマ・サンダマリさんの遺影を横に記者会見する妹のポールニマさん=2021年10月5日、東京都千代田区

なぜ対応がここまで後手後手になってしまったのか

今からちょうど1年前の2021年3月6日、ひとりのスリランカ人女性が収容中の名古屋出入国管理局(以後「名古屋入管」という)で亡くなった。彼女の名前はウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)。当時国会で議論されていた入管法改正案とともに多くの耳目を集めた事件なので、記憶されている方も少なくないだろう。

私もこの報に驚いた一人ではあるが、情報はごく限られていたこともあって、どのような状況で彼女が亡くなったのか、またいかなる問題が背後にあるのか考えてはいなかった。その私がなぜこの事件に関わるようになったのか。

2021年8月10日、出入国在留管理庁調査チーム名で「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」が出されたが、じつはこの「最終報告書」が出される前の4月9日に「中間報告書」なるものが公表されている。私が本件の概要を知ったのはこのときが最初だ。友人の新聞記者より、この「中間報告書」および心肺停止で病院に救急搬送された3月6日すなわち死亡確認直前の採血データの読み解きを依頼されたのである。

「中間報告書」を一読しての第一印象は、入管施設という人的・物的いずれにおいても極めて“医療資源に制約のある環境”であるにせよ、なぜ対応がここまで後手後手になってしまったのか非常に不可解、というものであった。

放置されていたといっても過言ではない

私には入管施設での勤務経験はない。しかし日常は大学病院や救命センターといった人的・物的医療資源が充実している高次医療機関ではなく、在宅医療というむしろ“医療資源に制約のある現場”にいる。入管施設の現場は知らなくても、数々の制約下で行われる医療について一定の知見を語ることは可能だ。

ただ同じ“制約のある現場”であっても、在宅医療と収容施設における医療とはまったく異なる。なぜなら入管施設の被収容者は、自らの意思で医療機関を受診する自由を国家権力に奪われているからだ。つまり被収容者に対しては、ことさら健康状態には留意し観察、真摯しんしに訴えを聞き、状態変化を認めた場合には治療の要否を迅速に判断、そして必要とあらば速やかに医療につなげねばならないことは言うまでもない。

翻って本件ではどうであったか。後手どころか放置されていたといっても過言ではない経過だ。ウィシュマさんにいったい何が起きていたのか。彼女を救うことができたとすればどの時点であったのか。「病死」という入管の発表を鵜呑みにしてよいのか。