3つの異常値があったのに「記憶は定かではない」
ウロビリノーゲン、ケトン体、タンパク質すべてが「3+」、つまり異常値だ。この異常値を医師はどのように見たのか。看護師の証言によれば2月18日に医師にこの結果を伝えたとのことだが、医師は調査チームの聴取に「2月18日の診療時に尿検査結果を把握したかどうかの記憶は定かではない」と答えたという。そして、その上で「当時は,消化器の検査で異常がなかったことなどから,精神的な問題を一番心配し,精神科を受診させる方針としたのだったと思う旨述べている。」と「最終報告書」には記されているのだ。
「最終報告書」には、総合診療科医師の見解として「生体が飢餓状態にあることを示唆しており,このような状態であれば,電解質異常や腎機能障害といった代謝障害を招来している可能性があった」と記され、タンパク質3+については「可能性として慢性腎炎等による腎機能障害が生じていたことが考えられる」とある。
だが「ウロビリノーゲン3+」については完全にスルーだ。ウロビリノーゲンが尿中に検出されるのは、肝炎や肝硬変といった肝疾患が代表的だが、心不全や溶血性貧血、巨赤芽球性貧血といった病態も想起される。つまりウロビリノーゲン3+との結果だけでも、すぐ採血等により異常の有無を確認すべきなのだ。
ウィシュマさんはビタミンB1欠乏だった?
すでにウィシュマさんが飢餓状態にあったことは間違いないが、それを踏まえて見逃してはならない重要な点がある。ビタミン欠乏だ。これは医師であれば、必ず考えなければならない。
とりわけ私はビタミンB1欠乏の可能性を指摘したい。ビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギーに変換させる際に必要な補酵素であり、豚肉、大豆、ナッツ、全粒穀物などに含まれ、通常の食生活を送っている人ではまず欠乏することはないが、極端に食事摂取が足りない人、アルコール中毒者、高カロリー輸液という点滴のみで生活することを余儀なくされている人で欠乏することが知られている。
ビタミンB1は糖代謝に必要なものであるため、これが不足している状況でさらに糖質ばかり摂取すれば、よりいっそうビタミンB1の消費に拍車がかかってしまうことになる。ウィシュマさんが摂取していたものは極端に糖質に偏っていた。ビタミンB1欠乏はないのか、医師であればすぐに疑ってかかる必要があったと言えよう。