「単発的に医師を確保しようとしても長続きしない」

もちろん医療体制の整備は非常に重要だ。しかし医療体制と今回のウィシュマさんに行われた医療行為の是非については、峻別して議論されなければならないと私は強く思っている。問題は入管や所管の法務省の不作為や不誠実なのだから、批判の矛先を医療行為を行った医師たちに対して向けてしまうと、本来の論点がブレてしまうとの意見を言う人もいるかもしれない。だが私は、そうは思わない。

医師たちはなぜ真摯しんしにウィシュマさんに向き合おうとしなかったのか。そこに何か根源的なものはなかったのか。それは入管の体質と根を一にしたものではなかったのか。この問題の背景をそこまで深掘りすべきだと思うのだ。

「最終報告書」で医師である1人の有識者は、入管収容施設における医師確保の課題について「診療対象が外国人被収容者だけという勤務環境の特殊性がある。通例,医師は,様々な患者を診ることのできる環境を望むが,収容施設では診療の対象が限定されており,職場として魅力がない。また,求人サイト等で単発的に医師を確保しようとしても,長続きしない」と述べている。

患者に説明する医師
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担当医師の姿勢が事件を読み解くのになぜ重要か

今回ウィシュマさんの診療にあたった内科医師、整形外科医師は、どのような経緯で入管にて勤務することになったのか。自らの強い意思でこの特殊な勤務環境に飛び込んできたのか、あるいは所属している医療機関から出向という形で自らの意に反して勤務させられることになったのか。いずれであったのかを把握しておくことは、事件の真相、深層を読み解く上で非常に重要なカギのひとつだと私は思っている。

たとえ特殊な勤務環境であろうと、入管施設における医療や、日本における外国人労働者、難民問題に多少でも意識があって、自らの意思でこの職場を選んだというのであれば、常勤非常勤に関係なく真摯に業務にあたることだろう。

逆に、自分の専門とする医療分野とまったく縁がなく、スキルアップに寄与しない職場に、意に反して行かされたというモヤモヤした気持ちのまま就業していたとすれば、なおざりな対応になってしまうかもしれない。担当した医師から事情聴取するにあたっては、いかなる経緯で就業することになったのかも併せて聞き取り、行われた医療について検証していく必要があると思うのだ。