反ワクチン団体指導者の2つのパターン
では、こうしたグループで指導的な立場にあるのは、どのような人々なのだろう。筆者の観察したところ、2つの系統があるように思われる。
ひとつめは末端の構成員と同じ成り立ちを持つ者で、ここまで説明してきたようなさまざまなタイプの人々が、時を経てリーダーに昇格したパターンだ。自分を正当化してくれたり肯定してくれたりする説を普及させる伝道師(エバンジェリスト)といえる。
2つめは商売や名誉のためにワクチン害悪論や陰謀論を利用する者で、当人たちは説をまったく信じていないか、部分的にしか信じていない。敵を設定することで、味方を増やして何らかの実利を得ようとする詐欺師や山師(インポスター)だ。
インポスタータイプの指導者もまた2つの系統に分かれる。商売と割り切って構成員や顧客との距離を保ち続けるリアリストと、距離を保つことができなくなり、自らが作り出した熱狂に巻き込まれていく者だ。後者は味方からの期待を裏切れず、言動にどんどん過激さが増して、収拾がつかなくなる。接種妨害騒動を起こすような過激な反ワクチン団体の幹部や、おかしな説を唱え続けてファンを増やしメディアでもてはやされた医師たちには、筆者から見て後者の傾向が感じられる。
「自ら作り出した熱狂」をコントロールできるのか
自らが作り出した熱狂に巻き込まれていくパターンを見て思い出すのは、1995年に地下鉄サリン事件を引き起こした新興宗教団体、オウム真理教のケースだ。筆者は、ある女性がオウム真理教に帰依して出家するまでの経緯を間近に見て、教団崩壊の5年後に話を聞く機会を得たことがある。オウム真理教の教祖や幹部は信者たちを洗脳と恐怖で操縦していたが、「信者をロボットのような言いなりの存在とは考えていなかった」という。
教義や洗脳で信者に植え付けたものをやすやすと裏切れないと自覚していた幹部たちは、たとえおかしな論理だったとしても、それなりの整合性を取ろうとしていた。麻原彰晃が悪質な犯罪行為をヒートアップさせていった原因は、こうしたつじつま合わせの動機にある。
今、自ら作り出した熱狂に巻き込まれている陰謀論団体の指導者たちは、果たしてどこかでソフトランディングできるのだろうか。