ブラック企業を潰して“マトモな労働環境”を用意すべき

しかし実際のアトキンソン氏の提案は、「『ブラック企業』を温存して、その下で働く人に死ぬ思いをさせ続けるのをやめて、ある程度拡大余地のある経営主体に統合していくことで、できるだけ多くの人に“マトモな労働環境”を用意できるようにする」という、非常に「共助」的な発想から出ているものだということが分かります。

つまり、「会社を守って個人を虐げる」のをやめて「会社を無理に守るのをやめて個人を助ける」政策こそが、この「中小企業統合推進」政策だということになるのです。

ここまでの説明を聞けば「アトキンソン氏の主張」が「とにかく規制を撤廃して競争させればいいのだ」というような「とにかく競争して叩き合いをさせることが自己目的化した市場原理主義」とは随分違うことが理解できるかと思います。

ヤバいブラック企業は日本中にごろごろある

私は主に中小企業のクライアントを持つ経営コンサルタントが本業ですが、マッキンゼーというアメリカのコンサル会社で欧州の国際的大企業や日本政府や日本の大企業のクライアントを担当したことがあり、さらに今の仕事をする前に「あらゆる日本社会の側面を体験しなきゃ」ということで、いわゆる色々な「ブラック企業」に潜入して働いていたこともありました。

写真=iStock.com/kazuma seki
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だから「どちらの視点」も体感として分かるのですが、若い頃に実際に入社した「様々なブラック企業」の実体験から言うと、日本には結構な割合で、「かなりヤバい中小企業」が存在しています。どう「ヤバい」か。

・「労働基準法ギリギリどころか普通に超えるほど、メチャクチャ長時間働かせて給料が手取り月15万円」
・「パワハラ・セクハラ・その他の圧力は当たり前」
・「社員のほとんどに昇給の見込みはないが、社長とその一族はそこそこの暮らしをしている」

実際、こうした会社は日本中にごろごろあります。

しかもこういう会社はスラム街的な地域ではなく、都会のキレイなビルに入居していて、リクルート社の求人雑誌にも普通に載っていたりします。しかしこういう会社群のことは、「経済について本を読んでネットで議論する」ような層はそもそも日常生活で触れることが少ないので見過ごしがちです。