貧しい島の地元政治家を抱き込んだエプスタイン

料理人ジェームズはエプスタインのもとで働いていたのではないかと私は考えたが、調べるべき情報が雪崩のように押し寄せたので、彼が誰なのかを調べる時間はなかった。

料理人ジェームズとアイランド・マイクはそろって、証拠はないが、と断ったうえで、エプスタインが米領ヴァージン諸島の前知事ジョン・デ・ヨンを買収し、さらにはその妻セシルを、セント・トーマス島を拠点とするデータマイニング会社という触れ込みのエプスタインのベンチャー企業、サザントラスト社に雇っていたという。

セント・トーマスは貧しい島なので、エプスタインの意に沿うように地元の政治家の目をつぶらせるのにさほど苦労はなかっただろう。

実際、セント・トーマス島はエプスタインにとって完璧な場所だった。米領ヴァージン諸島(USVI)は文字どおりアメリカの領土だ。セント・トーマスのほかにセント・クロイ島、セント・ジョン島、さらにエプスタインのリトル・セント・ジェームズ島など多くの小さな島々で構成される。カリブ海の東端に連なる小アンティル諸島のなかにあり、地理的にはプエルトリコの東、英領ヴァージン諸島の西に位置する。

首都はセント・トーマス島のシャーロット・アマリーで、2010年の国勢調査によると人口5万1634人だった。

写真=iStock.com/Ryan Herron
※写真はイメージです

逮捕後、秘書が島内のカメラや金庫を「撤収」

エミリーと私がセント・トーマス島に到着したときには、FBIはすでにエプスタインの島の捜索を終えていた。その島で短期間働いていた女性と話してみたところ、その女性のボーイフレンドはエプスタインが逮捕されたときにはまだそこに雇われていたそうだ。

カップルふたりから話を聞くことができた。エプスタインが7月6日に逮捕されると、すぐに個人秘書のレスリー・グロフがニューヨークからやってきて、島のカメラシステムを取り外しはじめたのだという。エプスタインのコンピューターや、何が入っていたのかわからない大小の箱、オフィスにあった巨大なスチール製金庫もどこかへ運び去られた(なお、グロフの広報担当者は、エプスタインの逮捕後にグロフが島に行ったことはないし、島にカメラが設置されていることをグロフは知らなかったと述べた)。

このカップルはこわがっていて、録音器のまえでは話そうとしなかった。ふたりとも秘密保持契約を結ばされており、違反すれば100万ドルの罰金が科されるとのことだった。

この男性従業員によると、到着したFBI捜査官に従業員全員が退去を求められたそうだ。

「FBIが来たときには島内のカメラはすべてなくなっていた。島の捜索を始めるまでにあれほど長く時間を空けたことに驚いた」

セント・トーマス島の新たな到来者にはメディアの大群もいた。私が記事の方向性を見定めるまえに、ヴァニティ・フェア誌が、この性的人身売買犯はつい最近の2018年にも少女を連れてきていたと話す地元民の声を挙げ、島でエプスタインが重ねてきた悪事について強烈な記事を書きあげた。