MT比率はじつに72%

さらに販売状況を詳しく見ていくと、マニュアルトランスミッション(以下MTと記す)の比率が72%(2020年)と非常に高い。現在日本の新車販売に占めるMT比率は1%程度といわれているので、この数字は驚異的だ。

ポルシェですらMTは1割にも達していないといわれており、事実MTが設定されるモデルはごく一部だ。フェラーリやランボルギーニは今ではそもそもMT車を生産していない。スポーツカーという枠だけで見ても、この数字は驚異的なのだ。

アメリカでもMT比率は76%(2019年モデルのソフトトップのデータ)と高い。

いったいこれはどういうことなのか。

「EV化」「高性能・高価格化」に疲れた消費者の「第3の道」

ここからは私の推察になる。

ここ数年、自動車の話題はEV(電気自動車)で持ちきりだ。現実にはEV化はまだそれほど進んでいないのだが、様々な報道を目にしているとガソリン車を楽しめる時間はそれほど長くないと思ってしまっても不思議ではない。そして、今のうちにガソリン車のテーストを思う存分味わっておきたいと思う人が増えても不思議ではないと思う(私自身そういう思いに駆られることがある)。

筆者撮影
ロードスターの美点をさらに突き詰めた軽量モデル、990S。

一方で、ガソリン車の魅力を最も味わえる(はずの)スポーツカーの世界では高性能化・高価格化が進んでおり、600馬力、700馬力という車も珍しくない。価格も上昇しており、1000万円以下のスポーツカーはもはや珍しいといってもいいほどだ。

サイズもどんどん大きくなっており、一般的な駐車スペースでは駐車に難儀するモデルがほとんどである。スポーツカーはドアが大きいため、同じ大きさでも通常の4ドア車より出入りが圧倒的にしにくいためだ。

私もフェラーリやマクラーレンといった高性能スポーツカーに試乗したことはあるが、あまりに馬力がありすぎ、またあまりに大きすぎるため、公道ではまったく楽しめずストレスが溜まるばかりであった。

つまり最近の高性能スポーツカーは、価格的にも実用面でもあまりに非現実的なものになってしまっているのである。そういう状況の中、一服の清涼剤のような存在として、マツダ・ロードスターに注目が集まっているのではないか。