再び、マラソンランナーとして輝けるのか

今回の「現役復帰」に関しても21年10月中旬にコーチを務めていたピート・ジュリアンに打ち明けている。公表したのは今年2月。決して気まぐれで発言したものではなく、揺るぎない決意があった。

「自分がドキドキしたいというか。もう一度挑戦したら、何を発見できるのか。そういったことが最初のインスピレーションにあったような気がします」

では、実際に大迫はどこまでやれるのだろうか。

現役復帰といっても結果的に“長めの休養”になっただけで大きなブランクがあるわけではない。精神を一度解放できたことで、メンタル面はプラスに働くのではないだろうか。

写真提供=nike

復帰レースは未定だが、今後はマラソンを主戦場にしながら、トラックレースにも出場する予定。マラソンの再挑戦は今年の秋冬か、来年の春になりそうだという。大迫はパリ五輪を33歳、ロス五輪を37歳で迎えることになる。

「年齢的に衰えるといっても、やってみないとわからない。マラソンは30kmから別世界だという人がいますけど、僕はそう思いません。常識を疑うことができたら、自分でも競技をしていくのが楽しいかなと思いますね。記録や順位は気象条件と同じように、自分ではコントロールできません。記録や順位の目標を明言するよりは、前回のマラソンより、今回のマラソンというように、少しずつ良くなっていくことを目指していきたい」

大迫はマラソンランナーとしての向上心を失っていないどころか、まだまだ貪欲に攻めていくつもりだ。

オリンピックや世界選手権に出場するには“国内選考”をくぐり抜けないといけない。東京五輪男子マラソン代表の3人は大迫が最年長の30歳で、中村匠吾(富士通)が1学年下、服部勇馬(トヨタ自動車)が2学年下になる。それから4学年下の鈴木健吾(富士通)が21年3月のびわ湖毎日マラソンで大迫の記録を塗り替える2時間4分56秒の日本新記録を打ち立てた(大迫の2時間5分29秒は歴代2位)。

他にも2時間6分台を持つ24歳の土方英和(Honda)、26歳の細谷恭平(黒崎藩磨)といった若手もマラソンでキャリアを積み上げている。東京五輪の選考時より日本マラソン界のレベルは上がっている。

さらに東京五輪の男子10000mに出場した社会人2年目の相澤晃(旭化成・24)と伊藤達彦(Honda・23)。21年12月に10000mで日本歴代2位の27分23秒44をマークして、箱根駅伝2区で区間賞を獲得した田澤廉(駒澤大・21)というマラソン未経験ながらスピードが魅力の若手も強力なライバルになっていく可能性が高い。

勢いのある20代を相手に“大人のレース”で勝負していけるかどうかが鍵になる。