新たな挑戦をすることで大迫傑の存在価値は上がる
スピードや肺活量は20代をピークに低下するといわれているが、世界の強豪は30代後半でも強さを見せている。
男子マラソンの世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)は36歳で迎えた東京五輪を圧勝。五輪で2大会連続の金メダルを獲得している。ケネニサ・ベケレ(エチオピア)は37歳のときに世界歴代2位の2時間1分41秒で突っ走っており、大迫もマラソンランナーとしてまだまだ“ポテンシャル”を秘めているといえるだろう。
ただし、オリンピックでメダルを目指していくなら、これまで以上に強くなる必要がある。その道のりは甘くない。大迫はマラソン日本新記録による1億円のボーナスを2度も受け取り、東京五輪でもヒーローになった。お金と名誉を手に入れた者が再び、ストイックな生活に戻るには、これまで以上のモチベーションが必要になるからだ。
マラソンは特効薬のような練習メニューはないため、かつての大迫のようにトレーニングでも“新たな挑戦”を積み重ねていくしかない。それが30代の大迫にできるのか。
大迫は21年9月、法人「株式会社I(アイ)」を設立して代表取締役に就任している。現役中から未来のアスリートを育成する大学生対象プログラム「Sugar Elite」や小・中学生を指導する「Sugar Elite kids」などを立ち上げていたが、現役復帰後もこの活動は継続する。
大迫がレースに出場することで自身の活動をPRできるだけでなく、選手として活躍することで上記プロジェクトの価値も高まる。他の現役選手に与える刺激や効果も大きくなる。
「東京五輪をひとつのゴールにしたんですけど、第2章として、どこまで世界と戦っていけるのかという挑戦をしたいんです。また、これから育っていく選手たちの背中を押すだけじゃなくて、選手としての背中を見せて引っ張っていきたい。それができれば、僕自身もそうですけど、日本陸上界がもっと強くなっていくんじゃないでしょうか。失敗したっていい。挑戦するのは楽しいことを伝えられたらいいですね」
早大卒業から8年。大迫ほど注目され、結果を残した長距離ランナーはいない。速いだけでなく、アスリートとしての在り方や考え方を尊敬し、憧れている若い選手は多い。それだけに、「打倒・大迫傑」を目標に挑んでくるだろう。それは日本マラソン界にとって大きなプラスになるに違いない。
大迫の現役復帰はマラソン界に波及効果を及ぼし、さまざまなシーンでウィン・ウィン・ウィン……の関係を作り出すのではないだろうか。そんな予感がしている。