聞けば、その選手は中学校時代の先生から、「平常心を保つことこそ人間の能力を最大に発揮する方法だ」と教わったという。しかし、そんな教えは私に言わせればナンセンスだ。

勝ち負けにこだわると脳のパフォーマンスが落ちることは前に述べたが、負けて悔しがることは悪くない。悔しがるとA10神経群の危機感が煽られて、脳のパフォーマンスが高まる。賛否はあろうが、朝青龍が強かったのは、勝ち負けではなく、勝ち方にまでこだわって勝負していたからだ。だから、思わず、土俵の上で悔しさを露わにし、勝てばガッツポーズを取って喜びを露わにした。

私はその選手に言った。

「君はいったい何のために走っているの? 凄い走りを見せて沿道の人々を感動させるために走っているんじゃないの。そういう走りを見せることで、あなたの選手としての人生が輝いてくるのではないですか」

その選手が、一瞬に「目からウロコが落ちた」といった顔をしてくれたことが嬉しかった。

脳は、勝敗や損得勘定を抜きに、感動しながら全力投球をしているとき、最高のパフォーマンスを示す。つまり、本当に勉強ができる人とは、何事にも感動できる豊かな情緒を持ち、何事にも損得抜きに全力投球する素直な性格を磨き、それらを当たり前に行うことを習慣にしている人なのだ。

(構成=山田清機 撮影=小倉和徳)