林 成之●日本大学大学院 総合科学研究科 教授。1939年生まれ。日本大学医学部、同大学院医学研究科博士課程修了。米マイアミ大学や日本大学医学部などで救命救急に携わる。2006年より現職。『脳に悪い7つの習慣』『ビジネス〈勝負脳〉』など著書多数。

冷蔵庫に何かを取りに行ったが、急に家族から話しかけられれて、何を取りに来たのかを忘れてしまう。こんな経験は誰にでもあるだろう。プロのゴルファーでさえ、パッティングの瞬間に誰かから「左に切れるよ」と囁かれると、パットが必ず左に切れてしまう。こういう状況を断ち切るには、一度グリーンの外に出て仕切り直すしかない。冷蔵庫に何を取りに来たのかを思い出すには、腰を上げたところから思い出すしかないのだ。

脳は新しい情報に即座に反応してしまうクセを持っている。新しい情報が途中で入ってくると、脳はそれまでやっていたことをきれいに忘れてしまう。これは、勉強方法を考えるうえで極めて重要な脳のクセだ。

よく、だいたいできたという段階で別の勉強を始めたり、次の課題に取り組んだりする人がいるが、これは脳のクセから考えてマイナスが大きい。ひとつの勉強を完結させないうちに次の情報を入れようとすると、脳は前の情報を忘れてしまう。効率的に学ぼうとすることが、皮肉にも、学んだことを忘れる仕組みを生み出しているわけだ。

では、ひとつの勉強を完全に頭に入れるにはどうすればいいのか。最も有効なのは、勉強の時間を半分に分け、前半に学んだことを後半で復習することだ。しかも、他者に向かって暗唱してみせるのが一番いい。