私は米軍病院で学んだ経験がある。授業は毎回、前半が講義、後半は講義の暗唱だった。教授に指名されて、暗唱させられる。学んだことを口に出してみると、いかに自分が理解できていないかがよくわかる。100%理解していなければ、正確な暗唱は難しい。そんなことができるのかと思われるだろうが、本気で集中すればできる。

以前私は、NHKのテレビ番組で柳田邦男さんの取材を受けたことがあった。柳田さんはインタビューの最中、ほとんどメモを取らない。しかし、台本には私の言葉が一字一句間違いなく引用されていた。人の話に集中すればメモは不要だ。むしろメモを取ることが集中を妨げる。

講義を聞いた後に自分でまとめ直す。特に、自分なりに絵や図にしてみることも効果が大きい。自分なりに面白くまとめたり描いたりすることで、自己報酬神経群が働くからだ。

先日あるお母さんが、娘は織田信長のことを勉強してそれをノートにまとめるとき、信長の耳の形が面白いと言って、信長の耳を一所懸命描いていたと嘆いていたが、こういう一見無駄に見える作業が、記憶としての定着力や思考力の喚起に、極めて有効なのである。効率至上の世の中だが、本物の才能は無駄の中から開花するのだ。

(構成=山田清機 撮影=小倉和徳)