観念に縛られていると次の一歩が踏み出せない
例えば、“働かざる者食うべからず”というのも、かなり強力な観念です。働いて自分の食い扶持を稼ぐのが一人前の大人だという考えは、私も間違っているとは思いません。しかし、その観念に縛られているばかりに、次の一歩が踏み出せず、がんじがらめになって立ち止まってしまう人もいます。
そういう人には、いったん「働かなくても食ってよい」と思ってもらうことが有効な場合があります。立ち止まったままでいるよりも、縛りを少しゆるめて動き出したほうが、変化が訪れるからです。
「あなたね、頭の中でまともに“早く仕事をしなければ”とか考えてない? それが、そもそもの間違い。今まで仕事、仕事って真面目に考えていい思いしたことあるの? ちょっとでも天職だと思った仕事はあったの? そうじゃないから困っているんでしょ」
「今まで一生懸命やってきたことの結果は、あなたに借金しか与えなかった。案外違うところに、あなたの成功が待っているのかもしれないよ。でも、それを見つけるのは容易なことじゃない。そう考えれば、数年休んだっていいんだ。とにかくきみは今、なぜ失敗に終わったかという原因探しばかりやっていて、その仕事に意味があったか、その仕事を社会が要求していたかを考えていない。間違ったことに一生懸命頭を働かせているから結論が出ない」
「うまくいかない今」から視点を変えるインパクト
「そもそも、仕事をしていない今の時間を無駄だと思っていることも間違い。今の時間が、きみにとってすごく大事なんだ。中途半端に仕事をしていたときのほうが、何かをやっているつもりで本当は何もやっていなかったのかもしれない。人は悩まないと伸びないんだし、自分はダメだって悩みがあるんだったら、それを利用しない手はないじゃない」
こんな会話で気が楽になり、「この前の話で、頭がすっきりしました」と動き出す人もいます。思わぬ挫折に茫然として、うまくいかなかったことの原因探しでいっぱいになっていた頭と身体を切り替え、これからどうするか、行動していくほうにパワーを使えるようになれば、変化はあっというまに起こります。進むべき方向が見えてくる。そして、これは本人にしか出せない答えです。私は、彼らの気持ちを楽にして頭をほぐすだけ。
平たく言えばポジティブシンキングですが、「前向きに考えようよ」と勧めたからといって、すぐポジティブになれるわけでもない。だから、具体的な会話をしながら物事の見方を変え、別の視点を提出します。今の「ダメだ」と思っている自分もダメではない、それはそれで意味があるんだという価値を見つけてほしいのです。