子どもの希望をすぐに満たしてしまうリスク

まぁまぁ普通の親は、忙しくしているうちに夕方になって、子どもに「ごはんまだ~?」と催促さいそくされながら夕飯を作ることもあります。あるいは「もう今日は疲れたから、スーパーのお惣菜を買って帰ろう」ということもあるでしょう。

これに対してエクセレントな親は、子どもが「お腹すいた」と言う前に“そろそろお腹がすく頃だ”とタイミングを見計らってサッと食事を出す。子どもが欲求不満を起こす前に、なんでも満たしてあげてしまうのです。王様が「乳をもて」と言う頃合いを見計らっておっぱいをあげるので、王様はいつまでも自分が無力な子どもにすぎないという現実から目をそらして、王様気分を持ち続けることができます。

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この場合、子どもは相当な努力をしないと親(多くは母親)との一体感を切り離し、「自己」というものを確立できなくなります。そもそも自己というものは、挫折ざせつ体験から生まれてくるものです。周囲からの逆風(つまり他者)がなければ、そもそも「自己」などという意識はいらないわけです。その逆風の極初期の一撃が「空腹」です。自分が周囲に受け入れてもらえないときに自己主張が強くなり、どうしてこんなに苦しいのだろうと思うときに自己意識が高まる。

子どもは挫折、屈辱を乗り越えて成長していく

万能感を持っていた幼児は、自分が万能でないことを知ったときに恐怖を感じて傷つきます。しかし、自分を説明する言葉を持ち、もう一度自己を定義していきます。何もできない小学校1年生に落ちぶれた子どもも、その屈辱を乗り越えて、また新たな自己を獲得していく。これを「成長」と呼ぶのです。ナルシシズムそのものは健康なもので、傷ついた自己像を修復して新たな自己像を求める心の働きも健康なものです。

自分の行動が適切でないとき、親に叱られるという経験も大切です。例えば、「熱いからさわっちゃダメ」と言われたガス台にさわろうとして強く叱られる。こういう親の怒声、叱声しっせいを“自分のためにやってくれている”と受け入れられるような人格ができると、社会化の段階になって外界との関係が楽に結べます。