神経を取るメリットはほとんどない

【歯科医】わたしたちが歯の神経と言っているものは、歯の中心の空洞の中にある歯髄しずいのことです。歯髄には神経組織と血管が集まっていて、歯に栄養を運んだり、食べ物を噛んだときの刺激を脳に伝えたりしています。

この歯髄を取れば、歯に血液が行かなくなる。そうすると、歯に栄養が行かないだけでなく、白血球の免疫作用も働かなくなるので、細菌の侵入に対する防御力がなくなります。つまり、感染症になりやすくなるとか、ばい菌の毒素が全身に回りやすくなる原因になるんです。

【患者】あれ? それじゃ、せっかく治療しても余計悪くなっているような……。

【歯科医】そう。神経を取ってしまうと歯は弱る一方。しかも、痛みを感じないので、むし歯が再発しても気づきにくくなります。神経を取るメリット全然なしじゃないですか。だから、歯医者さんで「神経を取る」「取っても何の問題もない」と言われたらそれは大間違い。

今は「歯髄温存療法」といって、神経を取らずに治療できる方法もあります。神経については、時間やお金をかけても取らないようにするのが一番!

【患者】先生のお話を聞いていたら、歯や口の中がいかに大切かということがだんだんわかってきました。でも、自分の歯を守るのってなかなか難しそうですね。

写真=iStock.com/Moncherie
※写真はイメージです

歯が20本以下の人は、20本以上の人より医療費が10万円も高い

【歯科医】そうですね。わたしはもともと医者と歯科医の家系に生まれて、大学では口腔外科に進み、医科と歯科の橋渡しをするような勉強をしてきました。卒業後は大学病院で、口腔がんの患者さんの治療にたずさわりもしました。

それで、歯だけでなく全身の健康を強く意識するようになったんです。当時は30代で若かったこともあり「いい治療を提供していけばむし歯が治って患者さんがどんどん減るはずだ」と思っていたんですよ。でも、残念ながら患者さんは減らない。

1回治しても、また同じ患者さんがむし歯になってやってくる。これはどうしてなんだろうと。

【患者】どうしてなんですか?

【歯科医】痛みを失くすとか、むし歯の部分を削って詰めるという対症療法では、根本治療にはならないんです。丁寧に一生懸命治療しても治らない。むし歯が治った患者さんが、今度は歯周病になってやってくる。

無力感におそわれましたし、さすがに「これはおかしいな」と思うわけです。

【患者】しかも、歯だけでなく、全身の健康も損なう……。

【歯科医】実は、日本では歯が20本以上残っている人といない人では、年間にかかる医療費に10万円以上の差が出るというデータもあります。アメリカでも、1年間で3回以上歯科に来院があった人、ようするに歯科で定期健診などを行っている人とそうでない人では、医療費が倍ぐらい違うというデータもある。