神経を取る治療の成功率はあまり高くない

【歯科医】実は、日本では保険で行う根の治療の成功率が世界に比べてものすごく低いんです。これは、初めて根の治療を行った場合のデータですが、アメリカで専門医が神経を取る治療を行った場合、成功率は90%。ところが、日本だと60%ぐらいです(※)

【患者】え? 4割も失敗? 失敗するとどうなるんですか?

【歯科医】再治療しますが、そのたびに歯が薄くなり、歯が割れて抜歯になって、インプラントを入れる……というパターンですね。

【患者】まさか、神経を取ってもむし歯が再発して、また治療するなんて想像していませんでした。しかも、結局、抜くことになってしまうなんて……。

【歯科医】そもそも神経を取るときの治療は無菌に近い状態でやらないと、将来的にまた炎症を起こすということが専門医の間ではわかっているんです。そのため、治療には「ラバーダム」というゴムのマスクを用いて、細菌だらけのだ液が患者さんの歯の内部に入らないようにして治療する必要がある。

【患者】ラバーダム……? そんな治療、見たことないです。

【歯科医】「ラバーダム防湿法」というんですが、設置に手間も時間もコストもかかるのに保険点数に反映されていないので、使っている歯科医がとても少ないんですよ。しかし、わたしは必須のものだと考えています。

なぜなら、歯科治療では消毒液をはじめいろいろな化学物質や有機物を使用せざるをえない。ラバーダム防湿法を行えば、そういう有害なものが粘膜から吸収されないようにもできる。

(※)須田英明「わが国における歯内療法の現状と課題

歯の神経を気軽に取ってはいけない

【患者】歯を削ったときは、だいたい口の中に溜まっただ液や削りカスを、ガ~ッと機械で吸い出されるのがふつうでしたが……。

【歯科医】そうですよね。だから、この治療法にすれば、だ液と歯を完全に隔離させられるので、それらを飲み込むこともない。認知症リスクのところでお話ししたアマルガムという銀歯の除去も、このラバーダムを用いて除去しないと危険です。

また、ラバーダムを装着していると防湿作用があるので、人工の歯を作ったときなども接着しやすくなる。

【患者】全然知りませんでした。わたしが神経を取ることになったときは、ラバーダム治療をお願いしたいです。

【歯科医】いやいや。そもそも、神経を気軽に取ってはダメ。当院では、神経を取らなければならないケースは1年間で1~2本もないくらい。最新の手法を用いれば、かなり進行したむし歯でも神経を残せる時代です。

【患者】えっ。神経を取らずに治療できるんですか?

【歯科医】神経を取ることはすべて最悪の結果につながります。そのときは「痛みがなくなってよかった」と安心するかもしれませんが、安易にやることじゃないんです。

【患者】痛くても取らないほうがいいんですね。

【歯科医】神経を取るのは一生の問題。たしかに、最先端医療では、取った神経を一部再生できるという研究も進んできています。しかし、一般的ではありません。今の歯科医療では残せる神経はできるだけ残したほうがいいという方針が常識になっています。

【患者】歯の神経を取ってしまうと、どんな問題が起こるんですか?