ファストフード業界は独占的競争市場のいい例

独占的競争とは、ある程度の独占力を持つ企業が集まって競争している状態だ。独占的競争市場は、市場の構造が完全競争にとてもよく似ている。買い手と売り手が大勢いて、参入障壁も最小限、あるいは最低でもすべての企業にとって平等であり、情報もすぐに手に入る。

とはいえ、独占的競争市場では、すべての企業がまったく同じ製品を提供するのではなく、競合他社と差別化しようとする。企業はこの「製品差別化」によって、「うちの製品はよそとは違う」と消費者を納得させようとする。

独占的競争市場と聞いて、多くの人がイメージしやすいのはファストフード業界だろう。ファストフード業界には多くの差別化された生産者が参入し、多くの消費者をめぐって顧客獲得の競争をくり広げている。所定の金額を払って必要な営業許可を取得すれば、誰でも業界に参入することができる。ほとんどの生産者はこの業界がどんなところかわかっていて、そして消費者のほうも製品の中身がよくわかっている。

なぜファストフードは独占的競争市場なのだろう? 答えは「製品差別化」だ。提供するメニューは会社によって違う。マクドナルド、サブウェイといった会社は、ファストフード市場でお互いに競争し、それぞれが消費者に多様な選択肢を提供している。そのような中でも、十分に差別化された商品を打ち出すことができれば、もしかしたらチャンスがあるかもしれない。

なぜリンゴにはたくさんの種類があるのか

他の例も挙げてみよう。今度スーパーに行ったときに、生鮮食料品のコーナーをよく見てほしい。いったい何種類のリンゴが売られているだろうか?

デイヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)

昔はリンゴといえば、赤リンゴか青リンゴの2種類しかなかった。しかし最近は、レッドデリシャス、ピンクレディ、グラニースミス、ガラ、フジ、ハニークリスプなど、いろいろな種類がある。大きさも、大、中、小さまざまだ。オーガニック栽培のリンゴもあれば、農薬を使用したリンゴもある。1個ずつ売られているものもあれば、パッケージで売られているものもある。

リンゴ生産者たちはこうやって差別化を図ってきた。なぜそんなことをするのかというと、すでに見たように、みなが同じ製品を売っている完全競争市場の企業は、価格に影響を与えることができないからだ。自分の製品を差別化して成功すれば、競争相手よりも高い価格をつけることができる。

製品差別化の問題は、それが終わりのない消耗戦になってしまうことだ。企業は永遠に自らを差別化する方法を探し続けなければならない。彼らが広告に大金を投じる理由もここにある。広告の大半は、新しい顧客を獲得することが目的ではなく、むしろブランドロイヤリティ(消費者のブランドへの忠誠心)の確立を目指している。

しかし、企業には限られたリソースしかない。そのため、広告を使って差別化を目指すと、生産のためのリソースが減ってしまう。その結果、独占的競争市場の企業は、完全競争市場であるよりも産出量が減るということになる。それを消費者から見れば、手に入るはずだったものが手に入らなくなることを意味する。

しかし、心配はいらない。どうやら消費者は、独占的競争市場が提供する多様性を大いに歓迎しているようだ。だから少なくとも、その効用によって費用は相殺できる。

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