原告が勤務時間後にした膨大な教育活動

本訴訟では、勤務時間の開始前である早朝の登校指導や、児童のマラソン練習、また、勤務時間終了後の夕方・夜間の授業準備やテストの採点、事務作業、さらには、勤務時間中の休憩時間を潰して授業準備や児童の見守りなどを行ったことには、時間外勤務手当が支払われるべきだ、というのが原告の主張であった。

次の写真のとおり、裁判では、原告が勤務時間後にもたくさんの教育的活動や事務作業に従事したことを示す資料が添付されている。

出所=裁判資料より一部抜粋。勤務時間外にも多くの仕事に従事していることが主張された。

それに対して、さいたま地裁の判決では、「教員の業務は、教員の自主的で自律的な判断に基づく業務と校長の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われているため、これを正確に峻別することは困難」であると指摘。そのうえで、「教員の勤務時間外の職務を包括的に評価した結果として」4%の調整額が支給されているので、時間外勤務手当の支給は認められない、とした(カッコ書きは判決文から引用)。

労基法では1日8時間労働なのになぜ

もうひとつの争点は、「1日8時間を超えて労働させてはならない」という労働基準法(労基法)の規制(第32条)に関連してであった。

さいたま地方裁判所は、公立学校教員にも労基法の適用は認めた。その上で、校長の職務命令に基づく業務時間が「日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化しているなど」教員の労働が無定量になることを防止しようとした給特法の趣旨を没却させるような事情が認められる場合について、校長は「違反状態を解消するために、業務量の調整や業務の割振り、勤務時間の調整等などの措置を執るべき注意義務がある」とした。

そのうえで、こうした措置を取らずに法定労働時間を超えて教員を労働させ続けた場合には、国家賠償法上違法になるとした。

ただし、本件では給特法の趣旨を没却するほどの事情には当たらないとして、賠償責任はないと判断し、原告の訴えを退けた。