白物家電の末路をたどるシャインマスカット

日本政府は、ブランド品種を中核にした農林水産物輸出額を2025年に2兆円、2030年には5兆円に増やす目標を掲げています。日本政府の農産物の輸出戦略はマーケットインです。マーケットインとは、要するに消費者が求める商品を売りましょう、ということです。そして、この戦略に位置づけられるブランド作物の一つが、シャインマスカットだということなのでしょう。

シャインマスカットは大粒で見た目が良く、甘みが強いブドウの代表的な品種ですから、これが特定のマーケットにおいて消費者が求めている品種なのだと思います。

しかし、私は日本政府の農産物輸出戦略、つまりマーケットイン戦略に懐疑的なのです。マーケットインとは、輸出する相手国の中で売れるものを売りましょうという考え方です。このため、求められる農産物の規格は相手側の基準によるわけです。もちろん、相手国の求める農薬基準や栽培基準に適合しなければ、そもそも輸出することができないのは当たり前です。

そして相手国の求める要素とは、必ずしも農薬や栽培基準に限ったものではありません。「美味しいブドウ」「つぶが大きいブドウ」「色が鮮やかなブドウ」といったように、数値に還元できない要素も入ってきます。その要素に適合するのであれば、日本産も韓国産も中国産も関係がありません。輸出相手国の求める商品に適合的であれば、日本産のシャインマスカットである必要性がないのです。

ですから、私が最も深刻な問題であると考えているのは、日本の農産物における「ブランド」概念の理解そのものなのです。

そもそも私はこの日経新聞の記事のタイトルにもなった「日本発ブランド『シャインマスカット』中韓の生産、日本上回る」という問題提起自体がナンセンスであると考えています。既に語ってきた通り、「ブランド」とはあくまでも記号的価値であり、「シャインマスカット」という品種を前提とした「ブランド」には、記号的価値はほとんど備わりません。

シャインマスカットの持つわずかな記号的価値とは、単なる「美味しさ」でしかない。仮にシャインマスカットに次ぐ新しい「美味しい」品種が作られたとしたら、日本からのブドウの輸出が拡大するかもしれません。しかし、長くは続かないでしょう。

単に甘くて美味しいブドウを作るということだけであれば、中国で開発された品種であろうと韓国で開発された品種であろうと関係がない。必ずや別の新しい品種が出てくるはずです。しかも、韓国はもとより、中国の自然環境も日に日に改善してきています。日本のお家芸であった白物家電が陥ったのと同じ末路となるのは目に見えています。

写真=iStock.com/Grassetto
※写真はイメージです

そうならないことを願いますが、私には既に日本産農産物のたどることになる「未来予想図」が目に見えてしまいます。