美味しさや機能性よりも優先される農作物の価値

一般的には、食品の商品価値は美味しさや見た目の美しさ、栄養分などの機能面にあると考えられがちです。しかし「フランス産」であるという事実に、美味しさや機能性に関する商品価値は存在しません。それとは関係なく、「フランス産」という事実それ自体が商品価値を持つのです。

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フランスは言わずと知れた芸術大国であり、美についての世界的な中心地とみなされています。フランスには、その国旗を見るだけでオシャレでハイセンス、かつ高級なイメージを呼び起こす作用が存在します。ホワイトアスパラガスの「フランス産」という情報には、このようなイメージがまとわりついているのです。

農産物に限らず、工業製品においてもフランス製の商品には、商品を消費すること、保持して維持し続けることに強い満足感や優越感を生み出す効果が存在しています。このような情報の価値のことを「記号的価値」と言います。

記号的価値を持った商品の代表格は高級ブランドです。フランスの芸術性や美のイメージをまとった高級ブランドと言えば、エルメスやルイ・ヴィトンが有名です。しかし、これは必ずしもフランスに限った話ではありません。

例えば、イギリスには「紳士の国」というイメージがあるはずですが、このようなイメージを引き受けているのが、イギリス王室御用達の高級ブランド、ダンヒルです。イギリス紳士のイメージをまとったダンヒルの商品価値とは、男としてのカッコよさ、すなわち「ダンディズム」を与えてくれそうなところにあります。ダンヒル商品の価値の源泉は「機能性」にはない。収納力や使いやすさといったビジネスバッグの機能、着心地や耐久性といったスーツとしての性能ではなく、働く男性たちにダンディズムをもたらす記号性にこそあるのです。

高級ブランドの価格が高いのは「品質が良いから」ではない

では、どうして「ダンディズム」のような形のない概念が商品性を持ち得るのか。それは、現代社会においては、人びとが機能性や必要性によって商品を購入する動機と機会がどんどん減っているからです。

例えば車。機能性だけを求めるなら動けばなんでも良いはずです。しかし、各メーカーは毎年のように新しいデザインの車種を投入しています。我々が車を選ぶ際、燃費や加速の良さ、近年では自動運転技術や電動化等の機能面も考慮しますが、それと同じか、もしかしたらそれ以上にデザインを気にしているからです。

都心部の狭い道を走るなら、小回りのきく軽自動車や小型車の方がずっと便利なはず。なのに、都心部の高級住宅地にはBMWやベンツ、ポルシェなどの外車、それも近年はSUVタイプの大型車が目立ちます。自分と他の人との違いを明確にし、自分の独自性を演出したり、特別感を享受したいという欲求に突き動かされることで消費行動が行われるのが現代社会なのです。そのような欲求を商品に投影させた存在がブランドです。ですから、ブランドにおいては消費者の持つ商品に対するイメージが重要になるのです。

エルメスやダンヒルのような高級ブランドだけでなく、廉価な商品ブランドであっても同じような効果を持っていますが、他の人との差異を演出するためには高級ブランドの方が手っ取り早い。なぜなら、そこには圧倒的な価格差があって、普通の人にはおいそれと購入できないからです。エルメスの鞄は、本当に高級なものには1000万円近い価格がつけられることがあります。1000万円もする鞄を普通の人が買えるわけがありません。エルメスを持てるということは、それだけで「金持ち」「成功者の証」となるのです。

高級ブランドにおいては、商品が高い品質を持つから高い価格になっている、という構造にはなっていません。商品の品質は、高級ブランドの本質ではありません。話は逆で、「そもそも商品価格が高い」ということこそが出発点で、高級ブランドをブランドとして機能させる肝なのです。