コロナ以降、自殺者数は増加し、出生数は低下

テレビをはじめとしたマスメディアが重要事項と解釈し、世間の「空気」を作っていったことに関してのみ、日本人は「生命至上主義」になる。

それまで10年連続で減少していた自殺者数は、2020年、2万1081人と対前年比912人(約4.5%)増になった。小中高校生については2019年の317人から31%増えて415人。この数字は1974年の調査開始以来、最多である。また、2020年の出生数は前年の86万5239人から84万835人に減少。日本総研の分析では、2021年は約81万人とさらに減ると見込まれている

しかし、これらの数字はなかなか世間の「空気」にならない。コロナのほうがよほど大問題だ、という空気が支配的だからである。いまは自殺よりも、出生率の低下よりも、とにかく「オミクロン株のヤバさ」が空気を作っている。

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メディア主導で「命」の扱いが規定される

“メディア主導で作られた世間の「空気」が「命」の扱われ方を規定する”という視点で思い出すのが、2004年の「イラク邦人人質事件」だ。外務省は紛争地区であるイラクへ渡航しないよう呼びかけていたが、日本人の若者3人がイラクへ渡った。「現地の状況を伝えたい」「現地の人を救いたい」という意思を持って行ったわけだが、彼らは武装勢力に拉致されてしまった。

このとき、小池百合子環境相(当時)が「自己責任」について触れ、その後、河村健夫文科相(当時)、中川昭一経産相(当時)らもそれに言及。政府のスポークスマン・福田康夫官房長官(当時)も3人を突き放すような物言いをした。

ネット上は、3人に対するバッシングだらけになった。「彼らの解放のため、日本政府は10億円もの身代金を支払ったらしい」といった説もネット掲示板に書き込まれ、無事帰国した3人に対する罵詈ばり雑言はしばらくやまなかった。

当時は確実に、3人の命よりも「自己責任論」「税金から支払われる10億円の身代金(根拠不明なのだが……)」のほうが大事だという風潮が世間に渦巻いていた。テレビはいちおう心配している体裁をとりつつ、3人に対して批判的ニュアンスも含んだ論調で報じ、ネットでは彼らを「3バカ」と蔑視する流れになった。

結局、日本国民は命の貴賤をテレビの号令により判断するのである。テレビがコロナ騒動の初期に志村けんさんの死を大きく取り上げたため、あれから1年9カ月経ったいまでも「コロナはそこまでヤバくない」派の発言に対して「志村けんさんの命を奪ったヤバいウイルスなんだぞ!」「志村けんさんの遺族の前で、オマエは同じことを言えるのか!」といった罵詈雑言がSNSに書き込まれるのだ。

一方で、コロナ陽性から順調に回復した著名人はゴマンといるのに、この人たちの予後が取り沙汰されることはほぼない。とにかく「ヤバい事象」ばかりが盛んに報じられるため、たとえばお笑いコンビ・東京ダイナマイトのハチミツ二郎氏のように、コロナが重症化して一時は危篤状態に陥った、といった人物ばかりがメディアから重宝されるのである。