10万円しか持っていなくても30万円のシャンパンを入れられる仕組み

売り掛けとは、いわゆる「ツケ払い」のことである。ホストクラブでは売り掛けでの飲食が一般化しており、給料日後である翌月の2~5日に、使った金額を支払うという仕組みだ。

佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)

10万円しか財布に入ってない場合でも、指名ホストの誘いでシャンパンを入れて30万円の会計をすることができる。その場合、現金で10万円を支払い、残った料金は翌月の決められた日までに入金すればいい。基本的に売り掛けは指定日までに直接店舗にもっていく必要性があり、「売り掛けを入金したら担当切るもん! ぴえん!」と宣言したホス狂がそのまま店にずるずると引き込まれ、結局、売り掛けを払いに行ったのにまた売り掛けをこさえて帰るといった事態が度々起こる。

風俗で働くホス狂のなかには、月初めに200万円などの売り掛けをし、1カ月かけて働いてその金額を稼ぐタイプも存在する。「売り掛けがないと働けない」と話すぴえん系女子も存在する。「稼いで飲む」のではなく、「飲んでから稼ぐ」というスタイルが確立しているのだ。

客の売り掛けをホストが自腹で支払うことも…

売り掛けをするとその金を払うまで担当ホストとの関係性が切れないこともあり、あえて売り掛けをしたりするケースもある。

売り掛けをした場合、覚書として売り掛けの金額を青い伝票、通称「青伝」をもらうことになる。これをホス狂の業界では「伝票はラブレター」「運命の青い糸」などと呼ぶ。もしもお客が売り掛けを支払えず逃げてしまった場合、ホストが自腹で店舗に支払うことになる。むちゃな売り掛けをした結果、給料がゼロになるどころか店側に借金をするホストも存在するのだ。しかし、この売り掛けという不安定なシステムがあるからこそ、ホストたちは破格の売り上げを立てられるのも事実である。

売掛金をホストが自腹で支払い、客が分割で返済していくことを「立替」と呼ぶ。立替ばかりで現金がないホストを「立替ホスト」といい、許容を超える立て替えが積み重なると、ダサいホストのレッテルを貼られる。「立替」のイメージがつくと、その後いくら売り上げても「どうせ立替」という烙印を押され、カリスマホストへの道は遠のいていく。「立替」によって形の上では1000万円を売り上げたはずなのに給料が80万円しかもらえなかったホストもいるくらいだ。

ホストもそこでお金を使う女性も、数字や肩書、立場、関係性という不安定な世界での虚構を維持するために日々奔走しているわけだ。現代の「繋がれる推し」文化のある種最上位に位置し、承認欲求から誇示的消費、エゴすべてを吸い取るのがホストクラブという存在なのだろう。もはや一部のホス狂いにとっては楽しむ場というよりも戦場と化している。

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