原価1000円程度の酒が7万円前後で出される

一方で、歌舞伎町のホストクラブ限定で頻繁に卸されているシャンパンも存在する。歌舞伎町の酒の値段は原価の10~15倍程度であり、夜の街で代表的なシャンパンであるヴーヴ・クリコのホワイトラベルは原価6500円前後だが、ホストクラブでは5万~8万円。対して、ロジャーというスパークリングワインや、オリジナルシャンパンというノンブランドの酒に自店舗のラベルを貼っただけの原価1000円程度のものが、同じく7万円前後で出されている。

こうした原価率の低いシャンパンにはボトルバックがついていることがある。客が支払う同じ7万のシャンパンでも、原価1万円ならばバックはなし。原価1000円ならば売り上げの10%がもらえる、という店舗も存在する。だからホストは何かとオリシャンやロジャーを入れたがるのだ。

お酒の大半がオリジナルシャンパンという方針のホストクラブも存在する。同じ値段ならば原価が高くうまい酒を飲みたい……と思うものだが、ホストを「推し」ているぴえん系女子からしたら、酒の味など二の次。ホストに一番喜んでもらえる応援の仕方を選ぶため、卸しても飲まない場合が多い。「シャンパンが飲みたいんじゃなくて、俺にシャンパンを卸したくてお金を使ってるいんだから、味なんてどうでもいいでしょ?」と口にするホストも存在するのだ。

もはや配信ライブでの投げアイテムのように、シャンパンは半ばバーチャルで応援するための「ツール」であり、品質はあまり気にしていない。キャバクラやクラブなどではイベント時のオリジナルシャンパン以外こうした酒類が置かれることはなく、ホストクラブは「推し」文化がより色濃いことがわかる。

シャンパンタワー
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「月700本」という指名本数はどうやって達成するのか

ホストクラブが接客を楽しむ場ではなく、推しの記録を上げ、歌舞伎町の記録を塗り替えるゲームとなっている一面が近年かなり強くなってきている。2021年、おそらく歌舞伎町史上初の5億円プレーヤーが生まれるのではないかと言われているが、売り上げ以上にインフレが顕著なのは「指名本数」という評価制度とそれに伴う記録だ。

ホストクラブの月間の記録は主に「売り上げナンバー」と「指名本数ナンバー」に分かれる。売り上げナンバーは文字通り1カ月にどれだけ売り上げたかであり、指名本数ナンバーは1カ月に何組の客を呼んだのかの記録である。一人の客が25営業日すべて来店した場合が25本。25人の客が月に1回ずつ来店しても25本である。

こうした売り上げと本数の現状の順位は裏局域であるバックヤードに常に張り出され、ホストが競争心を高める。20時~25時の5時間の営業で、1日10人の客を呼んだら単純計算で1人当たりの接客時間30分。ヘルプや初回の時間を除けば15~20分程度しか接客ができないことになる。

しかし、現在の歌舞伎町には指名本数が400本、600本、700本という記録をたたき出しているホストが存在する。700本などは25営業日で割っても一日に28人の客を呼ばないと達成しない数字だが、どのようにして行われているのか。