シャンパンコールで響き渡る客のコメント

次に、シャンパンコールとシャンパンについてである。現在ホストクラブで酒の値段は年々高騰しており、2000年代半ば、深夜店時代の酒単価はドンペリブラックで20万、ルイ13世で70万円だった。現在はルイの値段は大幅に高騰し300万~350万円となっているため、いくら酒類が高騰したとはいえ、ホスト業界がいかにインフレ化しているかがわかるだろう。

そして、ホストクラブの名物といえばやはりシャンパンコール。小計10万円以上のシャンパンからコールが行われる店が大半であり、数人から十数人のホストがシャンパンを入れた客の前でパフォーマンスを行う。その数分間、店は客とそのホストの舞台として機能する。客、担当ホスト、指名したヘルプホストそれぞれのコメントが店全体に響き渡る。客もコメントを求められ、かなりドキっとさせられる発言も多いので紹介したい。

「いつも楽しませてくれてありがとう!」とホストの顔を立てるマイクをするもの
「このくらいの金額、4日あれば余裕なんで~」と自分の稼ぎを自慢するもの
「○○くんの精子ください! 子供欲しいです!」と過激なマイクをするもの

なお、過激な発言やほかの客をあおるようなマイクパフォーマンスは「痛マイク」と呼ばれる。指名しているホストが被っている客に向かって、「好きって言うならシャンパンくらい卸したらどうですか?」とあおるなど、コールを使ってバトルが繰り広げられることも多々ある。巧みなホストはわざと対抗心の強い客2人を店に呼んで、マイク合戦とあおりあいで売り上げを増やす戦法を取る。

シャンパン・飾りボトルともにSNS映えするものが人気

シャンパンコールも30万、50万、100万、300万円……と値段によって音楽やキャストの数など豪華さが変わる。店に通い慣れていれば、音楽を聴いただけでイントロクイズのように、どの卓でいくらの売り上げがあがったかを計算できる。

また、シャンパンではなく「飾りボトル」を卸すという選択肢も存在する。シャンパンと違い最低でも数十万円から数百万円するこのお酒は、一度オーダーすれば自分が来店するたびにテーブルに並べられる。酒が空になってもだ。すると、客からもほかのホストからも、「アイツは大金を使っている」というのが一目瞭然となる。まさに“映え”(※)であり、誇示消費だろう。飾りボトルはそうした推し消費に溺れる女性たちのステータスであり、ホストと客、両者の権威の象徴なのだ。

※映え
「SNS映え」「インスタ映え」など、その場の原体験よりも「写真に残したときにいいかどうか」という基準でものを選んでいるときに多用される表現。一時期、おいしそうなキラキラした見た目だけど実際はそうでもないスイーツなどが、写真を撮ったらすぐに捨てられていて問題になった。現実世界よりも、SNS上で「どう見えるか」というまなざしを受けての行動なのがぴえん世代らしい。

シャンパン・飾りボトルともに、SNS映えするものが人気になってきている。シャンパンだと昔ながらのアルマンドに加えてエンジェルシャンパン、飾りボトルだとサンリオなどのキャラクターとも頻繁にコラボしているフィリコ、カラーバリエーションが豊富で「たまご」という愛称で親しまれているインペリアルコレクションなどがある。シャンパンといえばドンペリ、飾りボトルといえばルイのような文化はもはや残っていないと言っていい。