新宿・歌舞伎町のホストクラブで急激な「インフレ」が進んでいる。その結果、指名本数は月700本超、年間売上は5億円超というホストも誕生している。ライターの佐々木チワワさんは「客のプライドを煽る巧妙なシステムができあがっている」という――。

※本稿は、佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

シャンパンタワー
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「初回料金」は60分1000~3000円程度で焼酎が飲み放題

令和のホストのSNS戦略は一方的に情報を拡散しているだけでなく、興味を持ってくれた女性とは積極的に連絡を取り、ホスト側から客側の生活に入り込んでいく。色恋営業をされることで、ホストクラブに足を運ぶようになる女性も多い。そして非日常がいつでも日常に転換されるような仕組みが存在している。

ホストにハマるとホストクラブを中心に世界が回り、そこが居場所に思えてくる。ホストが発する言葉を営業として割り切ってたまに行くのではなく、その虚構を維持するために不要な人間関係を断ち切っていく。そうしていつしか推しが偶像ではなく日常と地続きであるように感じられ、推しが商品でなくなったあとでも自分だけは一緒にいられるような気がしてくる。

そうした錯覚を、ホストは言葉巧みに与えてくれる。「未来の関係性」に対する期待感を金銭に換える、“繋がれる推し”の立場を利用した搾取といえるだろう。筆者はこのホストクラブの特殊な営業形態と誇示消費システムが、現代の推し文化にかなり反映されていると考える。そのために、ホストクラブのお金が回るシステムについて解説していきたい。

ホストクラブには、独自の「初回料金」というものが存在する。60分1000~3000円程度で焼酎が飲み放題。5~10分おきに在籍するキャストが入れ代わり立ち代わりにやってきて会話をする。この時点では「推し」である「担当ホスト」は定まっていないことになる。

この安い初回料金は集客目的なので、ホストクラブ側からしたら赤字覚悟のシステムだ。初回に安く飲むことを目当てにしている客は「初回荒らし」と呼ばれる。これはアイドルの現場にだけ行ってチェキを取らずに空気を味わうタイプのオタクや、配信ライブは見るが課金をしない、いわゆる「無課金ユーザー」気質にも通じる。

客のプライドをあおる「ラストソング」というシステム

ホストたちは初回客から連絡先を聞き、連絡や食事を重ね、店に呼ぼうとする。2回目の来店では指名する「担当ホスト」を決めると、座るだけで最低1万円、軽く飲んだら3万円、使うお金は無限大のホストの世界に誘われるのである。

そして、ホストクラブには誇示消費をしたくなる仕掛けがたくさん存在している。例えば、毎日一番売り上げたホストが、一番金を使った女性の横でカラオケを歌う「ラストソング」がある。店のその日のナンバーワンを決めるシステムで、1位になって歌いたいホスト、1位にして歌ってもらいたい客が札束で競うこともある。2人の客がそれぞれ20万と30万を使いラスソンをホストがとった場合、ホストは30万円を使った客の横でラスソンを歌う。客は「その日店で一番お金を使ったイイ女」として振る舞える。

また、月の売り上げでは売れっ子に勝てないホストでも、ラスソンだけはその日一日の売り上げで決まるため、新人や中堅にもチャンスはある。そうした中間層の承認欲求や誇示欲求を埋めるためにも、ラスソンはうまく機能していると言える。