障害者年金は支給決定も母親には後悔の念が渦巻いている
仮に障害基礎年金の2級に該当した場合、月額の収入は次のようになります。
・障害年金生活者支援給付金 月額 約5000円
「長男は買い物も無駄遣いもしないので、月額7万円の収入はほぼ全額貯蓄に回せると思います」母親はそう言いました。仮にあと15年間母親と同居生活が続けられたとすると、月額7万円×12カ月×15年=1260万円になります。貯蓄が1000万円を超えそうだということがわかり、母親も少しほっとした様子を見せました。
面談後、長男からも了承を得た筆者は、必要書類をすべてそろえ障害基礎年金の請求をしました。
障害基礎年金の請求から4カ月ほどたった頃。母親から年金証書が届いたという報告を受けました。年金証書が届いたということは、障害基礎年金が認められたということを意味します。しかし報告をする母親の声は暗く沈んでおり、元気がありません。
母親は最後にこうつぶやきました。
「長男は現在も治療を継続していますが、症状が改善する気配はありません。今もほぼ一日中幻聴に悩まされています。そのような長男を見ると『もっと早く受診させてあげればよかった』といつも思ってしまいます……」
母親の心の奥底には、消え去ることのない後悔が渦巻いているかのように感じられました。
長男の症状は重く、確かに障害年金を受給することはできました。しかし、その代償はあまりにも大きい。障害基礎年金が受給できたからといって、筆者も素直に安堵することはできませんでした。
体の病気に限らず心の病気も早期受診・早期治療が大切です。重症化を防いだりその後の回復が早まったりする可能性が高くなるからです。一方、未受診期間や未治療期間が長くなれば長くなるほど、症状は重症化・慢性化しやすいとも言われています。
とはいえ、社会との接点が少ないひきこもりのお子さんにとって、病院で受診をするという行為はかなりハードルが高いのも事実です。
受診の話をするとお子さんが拒否反応を示すことも多いので、ご家族はつらい思いをされることもあるでしょう。しかし、お子さんもその症状によってつらい思いをしているはずです。
「最近つらそうだから一度病院で診てもらおうか」
「治療をすれば今よりも気分が軽くなるかもしれないよ」
そのように伝え、お子さんができるだけ前向きになるよう、ご家族が根気強く説得を重ねるしか方法はないのかもしれません。