2浪で入学した大学、就活で面接官から自己否定の言葉を浴びた

当時高校生だった長男は、有名私立大学に通うことにこだわっていました。といってもその大学で学びたいものは特になく、ただ単に「就職に有利そうだから」といった理由だったそうです。残念ながらその大学には合格することができず2浪してしまいました。さすがに3浪はしたくなかったので、その年に合格した他の大学へしぶしぶ通うことにしました。

その後、大学は留年することなく順調に単位を取得。23歳ごろ、就職活動を始めましたが、なかなか内定をもらうことができず、採用面接では自分が否定されるような対応をされてばかり。いつしか長男は「自分はダメ人間なんじゃないか? 周りの人たちも全員そう思っているんじゃないか?」そう自問自答することが増えていきました。

ある日、急に人の視線が気になってしまうようになり、恐怖のため外出できなくなってしまいました。長男も家族も「しばらく休めば治るだろう」そう思っていたそうです。

ところが、状況は改善するどころかむしろ悪化。視線だけでなく物音にも敏感になり、外から話し声が聞こえてくると「自分の悪口を言っている」そう強く思うようになってしまったそうです。

トンネルに座り込んで頭を抱えている男性
写真=iStock.com/baona
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長男には明らかに心配な症状が現れています。ここまで話を聞いていた筆者は母親に質問をしました。

「するとご長男は23歳頃に病院に行ったということですね?」

「そんなの放っておけばすぐによくなる。早く就職活動を再開しろ」

この質問に母親は顔をしかめました。

「いいえ、病院には行っていません。実は父親がとても病院嫌い。体調を崩しても自分で何とかするようなタイプの人で、それを私や長男にも強いました。(人の視線が気になり、物音にも敏感になったという)長男の訴えに対して『なにばかなことを言っているんだ! いい加減にしろ! そんなの放っておけばすぐによくなる。早く就職活動を再開して働け』と言って、長男を叱り飛ばしていたのです……」

父親と顔を合わせるたびに怒鳴られる。そのような事態を避けるため、長男は一日中自室にひきこもるようになりました。そうこうしているうちに長男の症状はさらに悪化。「窓の外から監視されている」という妄想に襲われ、日中でも厚手のカーテンを閉め、電気もつけずに自室でじっと恐怖に耐えていました。そのストレスのためか、さらに幻聴も聞こえるようになってしまいました。

「お前は何の役にも立たない能なし」
「就職活動を再開したいと思っているのか? そんなの無駄だ。やめておけ」

といった長男を否定するような内容ばかり。妄想や幻聴から逃れるため、長男は暗い自室の中でラジオをずっと聞いていたそうです。

会社員で仕事が忙しかった父親は「もうあいつのことなんか知らん! お前(母親)がなんとかしろ!」と言い放ち、父親と長男は絶縁状態に。母親自身は、長男は病気になったとまでは思わず、心のエネルギーが低下した状態ではないかと考えていました。また、夫の方針に逆らって叱責されるのが怖かったため、長男を病院に連れていくということはありませんでした。その後、この「ほったらかし状態」が約15年も続いてしまいます。