記事や公式発表がネットから次々と消されている
もう一つ、心配なことがある。
ここで列挙している記事や公式発表が次々とネット上から削除されていることだ。即時公開された論文などに何かしら引用元としてリンクが載っていたとしても、特に中国ソースは今から検索したのでは見当たらないものが多い。
例えば、2019年12月31日に公表された武漢衛健委の情況通報がそうだ。ウェブニュースなどはいずれ削除される宿命にあるとはいえ、こうした公的資料が1年も経たずに削除されるとは……。
そうなると、ネット上のサイトを巡回して記録、蓄積している「ウェブ・アーカイブズ」に頼らざるを得ないが、ここでさえ、永久的な保存が約束されたわけではないだろう。
このほか、検証と称して、後になってから過去の事実関係を塗り替える行為も警戒しなければならない。最新だからすべてに詳しく、すべて正確に事実を反映しているとは限らないのである。1年もしないうちに、サラミスライス的に情報の削除と塗り替えが進んでいるのだ。
だからこそ、日々少しずつでも記録を取り続けることが重要だ。多少不正確さや不完全さを残す内容であっても、その時その時の情報を忠実に記録しておかないと、向こうの都合で誤りも不都合なところも一緒くたで変えられてしまうからだ。
自発的に通報もせず、検証要請は「期限破り」
この後、2020年6月29日になって、WHO本部がタイムラインの改訂版を公表した。
これによると、WHOは20年1月1日、2日の両日とも中国当局に武漢の原因不明の肺炎クラスターについての情報提供を要請している。これは米議会調査局の報告書や4月20日の記者会見でも言及されたように、IHR第10条に基づく検証の要請である。そもそも4月8日版には2、3日の記述がなかった。
本来は要請を受けてから24時間以内に回答しなければならないが、中国側は翌2日のうちに回答することはなかった。改訂版には、2日にWHOが国事務所を通じて中国国家衛生健康委員会に改めて催促し、ようやく3日に、武漢の肺炎クラスターに関する情報が得られたことが新たに明記されている。
この日にWHOと中国当局は北京で会合を持ち、そこで中国側が情報を提供したのだ。中国がWHOに初めて連絡したのが3日だというのは、先に新華社が公表したタイムラインの記述とも一致する。