時系列順に並んでいないWHOのタイムライン

WHOの改訂版タイムラインで、焦点の2019年12月31日の事実関係は次のように改められた(カッコ内筆者。以下同)。

●在中国のWHO国事務所は、武漢衛健委ウェブサイトの報道声明(media statement =この場合は情況通報)を通じて、武漢での「ウイルス性肺炎」発生を把握した。
●国事務所は、WHO西太平洋地域事務局(WPRO、フィリピン・マニラ)のIHR連絡窓口に武漢衛健委の報道声明が発表された旨を伝え、その翻訳を渡した。
●また、EIOSも、武漢での「原因不明の肺炎」の同じクラスターに関するProMEDの報告を検出していた。
●海外のいくつかの国の保健当局がさらなる情報を求めてWHOに接触してきた。

「オープンソースからの流行病インテリジェンス(EIOS)」への言及は4月のタイムラインにはなかったので前進したとも言える。「新興感染症監視プログラム(ProMED)」メールの全文もリンクされた。ただ、出来事の順序が、時分単位の時系列で見るとかなり前後している。タイムラインでは混乱を招かないよう、時系列順で並べるべきだ。それとも何か理由があったのだろうか。

WHOの情報捕捉は中国国内外でほぼ同時並行

複数のWHO本部の取材源にあたったが、納得のいく説明はない。WHO本部とは別の筋として、20年7月1~3日にWPRO(西太平洋地域事務局)の当局者に補足取材した。WPROは5月18日に地域事務局独自のタイムラインも公表しており、その中で、19年12月31日の情報把握について、武漢衛健委の発表とEBSシステム(EIOS)による検知を挙げている。

WPRO側は次のように答えた。先方の回答を意訳したり、語順を入れ替えたりはしていない。

《EIOSは本部と地域事務局に導入されている。地域事務局は、その対象範囲をさらに絞る形で担当チームが毎日精査し、リスク評価にかけ、必要な場合には国事務所を通じて確認を行っている。12月31日、WPROは休日体制を取っていたが、担当官がEIOSを使って情報を捕捉し、中国の国事務所の担当者に情報の確認を依頼した。

一方、国事務所でもすでに、この情報の確認を始めており、その結果、WPROの問い合わせに対し、中国語で書かれた武漢当局の公式サイトで確認できたことをWPROに報告した。本部も、EIOSで同様の情報を捕捉しWPROに連絡をしてきており、国事務所からの情報も共有されたと理解している》

まとめると、EIOSが導入されている本部とWPROはこれに反応し、EIOSが導入されていない国事務所側は武漢当局の発表を把握し、ほぼ同時並行で情報をつかんでいたということになる。