「EU版一帯一路」構想は早々に空転するだろう
それよりもEUは、途上国に対し投融資の条件と基本的人権や民主主義、法の支配などEU流の普遍的な価値観への配慮を要求すると考えられる。特に、EUの立法府であり理想主義に燃える欧州議会の意向が強く反映されるはずだ。現実志向が強い欧州委員会に比べると、欧州議会はEU流の価値観に拘りを見せており、強硬である。
欧州議会は欧州委員会の人事権を持つため、欧州議会は欧州議会の意向を無視することはできない。先日も欧州議会は、法の支配を軽視するポーランドに欧州委員会が強い圧力をかけるように、欧州委員会を欧州司法裁判所(ECJ)に提訴した。これを受けて欧州委員会は、ポーランドに対する復興予算の執行を停止せざるを得なくなった。
基本的人権や民主主義、法の支配は確かに大切だ。しかしそれをEU各国が確立するまでには、長い歳月を要した事実を忘れてはならない。経済と同様に、政治や社会もまた段階的な発展のプロセスを踏むものだ。支援を通じて国の発展を促すことができても、その過程は紆余曲折を必ず経験するし、物事は決して単直線的に進まない。
EUが支援先の念頭に置くアフリカ諸国には、社会が未成熟な中で普通選挙が実施された結果、部族間の対立構造が議会に反映され、かえって国の混乱が長期化した歴史がある。これはEUの近隣諸国であるウクライナや東南アジアのミャンマーの混乱にもつながる議論だ。イデオロギー先行の開発支援は不幸な結果をもたらすことになる。
そもそもEUは、その価値観に基づきデジタル化と脱炭素化を支援の中核に据えるが、途上国にはそれ以外に優先順位が高い課題が山積している。その点、理念よりも実利を重視する中国との方が途上国は与しやすい。その中国による一帯一路構想さえ順調ではないというのに、EUのグローバル・ゲートウェイ構想が成功する展望など描けない。