欧州委員会のプレスリリースを読むと、この構想にもまたEUが重視する価値観が色濃く反映されている。あえて原文のままを引くと、冒頭に“the new European Strategy to boost smart, clean and secure links indigital, energy and transport and strengthen health, education and research systems across the world.”とある。

さらに“It stands for sustainable and trusted connections that work for people and the planet, to tackle the most pressing global challenges, from climate change and protecting the environment, to improving health security and boosting competitiveness and global supply chains.”と続いている。

繰り返すが、デジタル化と脱炭素化を推進し、環境保全との両立目指すというのが近年のEUの経済成長の戦略観だ。要するにそうしたビジョンにかなうように、途上国のインフラ支援を進めるというのが今回のグローバル・ゲートウェイ構想だ。供給側であるEUの意向が反映されるのは当然だが、途上国側の需要にどれだけマッチするのか。

デジタル化と脱炭素化…途上国には酷な投融資の条件

中国の拡張志向に基づく途上国への投融資に対しては、スリランカのハンバントタ港のケースを引き合いに、いわゆる「債務の罠」という観点から否定的に評価されることが多い。そうした側面は否定できないが、一方で中国による投融資が途上国の資金ニーズを満たしてきたこともまた事実であり、評価に値する側面も実は少なくない。

一般的に、途上国のインフラ計画は政治的な性格が強く、経済合理性だけでは説明がつかないものが多い。ヨーロッパで問題となったケースに、モンテネグロとセルビアの高速道路計画がある。採算性を重視するEUはこの計画に対する投融資を渋ったが、中国がそれを肩代わりした。このようなインフラ計画は、途上国に数多く存在する。

2019年3月3日、高速道路の建設現場
写真=iStock.com/Luka Banda
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そうした途上国の要望に、デジタル化と脱炭素化を通じて経済成長と環境保全を目指すというEUの投融資が合致するとは考えにくい。途上国としては、もっとシンプルに自らのニーズを満たしてくれるスポンサーを探したいところだ。あるいは投融資の条件を課されるにしても、政治的なイデオロギーが近しいスポンサーを好むだろう。

それに、デジタル化や脱炭素化の技術を、受入国側がどれだけ活用できるか定かではない。当たり前だが途上国の教育水準は低く、最新の技術を使いこなせる人材は不足している。日本もかつて政府開発援助(ODA)の一環として途上国にトラクターを贈ったが、現地に維持・管理ができる人材が不足、野晒しにされた苦い過去がある。

国盗り合戦的な思考で物事を考えるなら、中国よりも先に途上国を仲間に引き入れる必要がある。そのためには経済合理性などお構いなしに、途上国が企図するインフラ投資プロジェクトに対する投融資を推し進めるべきだろう。そこまで割り切れれば大したものだが、EUがそのように方針を大転換させることはまず考えられない。