――自分ではやっているつもりですが、なかなか追いつきません。
すべてを知っていなくてはならないとか、すべてをフォローしなくてはならないと思ってはいけません。私はキュレーションを仕事にもしていますが、顧客が「なんでこんなことも知らないの?」と聞いてくることもあります。そういうときはあれこれ言い訳せず、「私の知ってることにも限りがあります。できるだけ最新の情報を仕入れるよう努力はしているのですが。今日は私の知らなかった情報を教えてくださりありがとう」と感謝します。「あなたは私のネットワークの一部なので、またなにか面白い情報があったら知らせてください」というわけです。私は日本でおこっていることはほとんど知らないから、そういう情報をくれる人がいたらお礼を言いますよ。
――「知らない」ことを指摘されるに対しての心の持ち方を変えていくということえしょうか。
そうです。罪悪感よりも感謝の念をもつべきなのですあることについてどれだけの情報があるのかは、誰も知ることができませんから。
――日本では匿名のカルチャーが根強いのですが、キュレーションの世界では、「誰がキュレーションしているのか」が重要ですよね。
私は4つのツイッターアカウントを持っています。個人のアカウント、私の会社のアカウント、私の書著、『キュレーション(Curation Nation)』のアカウント、そしてニューヨークの動画イベント関連の4つです。どのアカウントで何を言うか、ということは、かなり意識してやっています。個人として話すときは、やや政治的にはリベラルなニューヨーカー、著者として話すときはキュレーションに関するネタが中心です。
匿名であることじたいが悪いこととは思いません。アメリカは自己主張のカルチャーだから、日本とは違うと思います。私は著者として話すときは、自分をやや大きく見せる傾向にありますが、いい本を書いたとう自負があるので、とくに引け目は感じません。でも、もし自分が情報統制の厳しい仕事についていて、それでもなにか発言したいと思ったら、匿名を選ぶでしょう。表現の自由は匿名によって実現されることもあります。いまから10年後、匿名や実名の文化がどのようにかわるか見ていくのは面白いですね。
――私がいま会社をやめてプロのキュレーターになるとしたら、最初に何をしたらいいですか。
たとえばあなたが熱気球のプロフェッショナルキュレーターになったらどうかと提案したとしましょう。そんなの興味ない、と思うなら、何か、自分がかかわるたびに喜びをもたらすものを思い浮かべてください。花とか、自動車とか、テクノロジーとか、子供たちとか、なんでもいいのです。寝ているとき以外のすべての時間を使ってやっていてもいいと思えるようなこと、そういうものを対象にしたほうがよいキュレーターになれます。私がキュレーションの本を書いたのは、このテーマに興味があったからです。他のことについて書いてもそこそこのレベルの本は書けたと思いますが、いい本にはならなかったでしょう。
キュレーターになりたいなら、まずは昔から興味があって他の人よりそれについてはよく知っている、しかもいまでも情熱をかたむけられるテーマを見定めることが必要です。そしてそのテーマが、多少なりとも経済的価値があることを確認することも忘れずに。