検索の時代は終わった――日々ネット上に吐き出される膨大な量の情報。検索機能だけでは「自分にとって意味のある」情報を選び出すのはもはや不可能とは言わないまでも、あまりに非効率だ。そこで注目されているのが人間の目と手による「キュレーション」。情報を「収集し、選別し、編集し、共有する」という新たな知的生産モデルを提案する話題の新刊、『キュレーション』の著者、スティーブン・ローゼンバウムにその極意を聞いた。
スティーブン・ローゼンバウム Steven Rosenbaum
起業家、著述家、ブロガー、キュレーター。インターネット上最大の動画キュレーション・プラットフォーム、マグニファイ 〈Magnify.net〉の創立者兼CEO。 ユーザー生成動画の父として知られる。MTV(ミュージックテレビジョン)のユーザー生成コンテンツの大ヒット・シリーズ「MTVアンフィルタード」の立役者。その後、一人称ストーリー・テリングの発掘、編成、キュレーションの世界でキャリアを築く。2001年9月11日の同時多発テロを記録した『9月の7日間』で、エミー賞(ドキュメンタリー映画部門)を受賞。この作品はキュレーションされた世界最大の9.11に関する動画コレクション「The Camera Planet Archive」として国立9.11記念博物館に寄贈された。全米屈指のキュレーション・サイト「ハフィントン・ポスト」に執筆中。
――キュレーションといえば、これまで美術館や博物館の学芸員の仕事でしたが、本書では、ネット上のコンテンツをある一定の視点から編集することとして再定義しています。いわば、「誰でもキュレーターになれる」ということですね?
そうです。そうした考え方に対して、旧メディア、つまり新聞や雑誌の編集者たちは概してやや構える傾向がありました。「われわれこそが情報のキュレーター」と思っているから、この本で書いているように「みんながキュレーター」という考え方には抵抗があるのかもしれません。ですから、こういう人たちと話すときはキュレーションという新しい概念が「危険思想」に聞こえないように注意する必要がありました。
グーグルは何年か前、「ウェブ上で必要な情報は、人間ではなくアルゴリズムが探し出してくれる。人間の編集者は過去の遺物になる」という意味のことを主張をしていましたが、私の本では、まったく逆のことを言っています。人間は、何かと何かを組み合わせて“ストーリー”をつくる能力をもっています。これはアルゴリズムにはできないことです。
かつてはネットサーフィンが可能でしたが、いまはサーフィンどころか情報の洪水に溺れてしまいます。たとえばガーデニングの道具を買おうとグーグルで検索したらそれこそ何万という結果がでてきてしまう。本にも書きましたが、私の名前、Steven Rosenbaumで画像検索をかけたところ、女性や犬の写真まで混ざった雑多な検索結果になり、そこから私と会ったことない誰かが私の画像を探すのは不可能です。
この情報過多の世界では、編集者の仕事は重要性を失うどころか、ますます重要になっている――そんなふうに言うと、オールドメディアの編集者たちもわかってくれますね。記事として何を出し、どのようにまとめ、プレゼンするか。その判断がますます問われているのです。