巨大な子宮を摘出
義父が亡くなった後も、鳥越さんは、83歳の父親と81歳の義母の世話に明け暮れた。
大腿骨骨折後、2019年3月に退院した父親は、要介護3と認定。人工骨頭を入れたため、しゃがむことができず、週2回、ヘルパーに入浴介助と掃除を依頼し、食事は近くのスーパーで総菜などを買っている。だが、父親は他人に生活に介入されることを好まないため、鳥越さんは週に2〜3回は実家へ通い、洗濯や布団干しなど、父親がヘルパーには頼めない身の回りの世話をしなければならなかった。
一方、義母はくも膜下出血を起こしたあと、一時、空間や名称、理性が飛び、子どものようになり、入浴の方法も忘れてしまっていたが、最近は、感情コントロール以外は、ほぼ元通りに。ただ、動くと尿もれがするらしく、大好きなゲームをするため、パソコンデスクの前に座ったまま、ほとんど動かなくなった。
2020年1月。鳥越さんは、甲状腺機能低下症、冠攣縮性狭心症と、次々に病気を発症。中でも冠攣縮性狭心症は、強ストレスで発症するものと医師は説明する。そのことを夫に伝えると、「俺のほうがストレスだ」と逆ギレし、たちまち不機嫌に。鳥越さんは通院と服薬で治療を開始した。
さらに鳥越さんは、2年ほど前から、生理前になると骨盤が広がるような痛みに悩んでいた。経血はだんだん多くなり、昼間でも多い日の夜用の生理用ナプキンを使うように。
「この量はさすがにおかしい」
そう思った鳥越さんは、近くの婦人科を受診。すると8センチほどの大きさの子宮筋腫が見つかる。鳥越さんは医師に、乳がんの治療中であることや脳動脈瘤の手術を受けたこと、両祖母が卵巣がん、子宮がんで亡くなっていることを話すと、総合病院へ行くよう紹介状を書かれた。
コロナ禍の2021年2月。総合病院を受診すると、主治医となった医師からは、子宮の全摘出を勧められる。
9月。子宮の全摘出手術を受ける1週間前、すべての病気を義母に打ち明け、手術を受けることを伝えた。以降、義母からは「コロナ患者がいる病院に行くなんて!」「息子(夫)の相手はできるのかしら?」などとLINEが入り、一日に何度も携帯に着信がある。鳥越さんはすべてブロックしたが、入院後も着信はやまなかった。
手術は無事終了し、当初入院は4日間の予定だったが、主治医に摘出した子宮を見せてもらった後から、鳥越さんは発熱。睡眠障害と摂食障害を起こし、入院は7日間に延びた。
「お別れのつもりで見たけれど、見なければ良かったと後悔しました。嚢胞も乳がんも、今まで何ともなかったのに。子宮は確かに子の宮の形をしていて(洋梨をさかさまにしたような形の袋状の器官)、目にした時、恨めしげにこちらを見ているように見えました」
以降、鳥越さんの気力は急降下。夜一睡もできなくなり、肉や魚が食べられなくなる。
主治医はこう言って謝罪した。
「うかつに摘出した子宮を見せてしまって申し訳ありませんでした。卵巣を摘出したことで、通常ならば更年期障害が起きるはずですが、鳥越さんにはホットフラッシュが起きていない。その代わりに喪失感がメンタルにきたのではと思います」
鳥越さんは、しばらく安定剤と導眠剤を服用し、退院後は臨床心理士に診てもらうことになった。